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「ねぇ、ブレイズ」、とぼくは遠慮がちに切りだしてみた。「前から聞きたかったんだけどさ」
雪の降る真夜中。
夜警のために巡回しているフェノバールの町は、平穏だった。町民はあまねく寝静まっているようで、生活の気配がせず、心細く、気味が悪くなるほどだった。
「何だ」、とぼくの話に応じるブレイズの態度は、どこかぶっきらぼうだ。
「どうして、ぼくなんかを従卒として引き受けてくれたの?」
「自分から従卒になりたいと申し出たくせに、その言いぐさはないだろう」
「まぁ、そうなんだけど」
ぼくと彼は、知り合いでも何でもない赤の他人同士だったが、共通点のあることが、ある時判明した。
ぼくも、彼も、出身地の村が同じであり、、メンドンという村だった。
「ブレイズは」、とぼく。「メンドンには、いつまで暮らしていたの?」
「ずいぶん前だ。このフェノバールに来て、俺は、今回の冬が五度目の冬になる」
「けっこう長いんだね」
夜警の順路をどんどん進んでいく。不審者などの異状は見られず、やりがいが感じられないほどだった。
「別に無理に付いてくることはないんだぞ、フリッツ。夜警の番は騎士が担当なのであって、従卒は違う」
と、ブレイズが言った。ぼくに気を遣ってくれているようだ。
「平気さ」
とぼくは返したが、強がりであり、強がるぼくを、ブレイズは、どこか呆れた感じの目付きで見た。
「やれやれ。しかしお前、ずいぶん気安くなったものだなぁ。最初話していた頃は、うやうやしかったのに」
「きっと慣れちゃったんだ」、とぼくは苦笑して言う。「それに、ブレイズに対して、別のひとの面影が見える気がするから、猶更なれなれしくなっちゃう」
「別のひと? 誰のことだ」
「言ってもどうせ分からないよ。ブレイズの知らないひとだもの」
――ブルーノのことだった。
ブレイズは腑に落ちないという風に首を傾げ、ぼくはというと、微笑ましいと同時に、さびしい気持ちになった。故人を偲ぶのは、物悲しいことだった。その個人が身近であれば、その分情動は大きかった。ブルーノのイメージが脳裡をよぎり、郷愁が襲った。
「まぁいい」、とブレイズ。「だが、他の騎士のいるところでは、ちゃんと敬った態度で俺に接しろよ。新米の騎士の分際ですでに従卒を取っているのが、城でちょっとした話題になっているんだから」
「大丈夫。目立たないようにするよ」
話をしながら、ぼくとブレイズはフェノバールの一角を巡回した。ただ漫然とブラブラ歩きして済ますには行かず、仕事としての意識を持ち、きちんと物陰にまで注意を配り、疑った。
とにかく、町は――というよりは、むしろこの時代そのものが――ピリピリした雰囲気に飲まれようとしており、のんびり構えるわけにはいかないのだった。
歩き疲れた頃、「そろそろ帰るか」、とブレイズが言うと、ぼくは内心、欣喜雀躍し、ようやく帰れるという思いで嬉しくなった。
騎士の夜警は当番制で、今までもブレイズが当番の夜は、ぼくは随行したし、多分、これからもそうするだろうと思う。
ひょっとすると、本来その必要のないところまでいっしょに行こうとするのは、ブルーノとの別離の経験が、心の傷としてあり、もうひとりぼっちになりたくないという恐怖心が、ぼくにそうさせているのかも知れない。
そういう風に、考えてみた。
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