さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第248話

***

 

 

 

 フェノバールは平野の城下町だ。

 

 周囲を城郭で囲まれた、いわゆる城郭都市である。

 

 ブレイズが騎士になり、ぼくがその小姓となって程ない頃のことだ。ぼくは彼といっしょに、城で講義を受けていた。もちろん、算術などの教養のためのものではなく、戦術に関する実践的知識を得るためのものだった。

 

 講義には、他の騎士たちと小姓たちも参加しており、レクチャーするのは、髪が白い高齢のベテランらしき上官だった。

 

 教壇の上で上官が説くのは、まず基本的なことだった。フェノバールという土地において、外敵と戦う場合に前提となる諸条件を、彼は列挙した。

 

 先述した通り、フェノバールは平野にある都市であり、その立地条件は、決して外敵と戦闘する上で、有利に働くものではなく、むしろ不利であった。平野ということで、敵は、あらゆる方向から攻められるし、また、視野を広く持て、幅広い戦術を組むことが出来る。

 

 だが、フェノバールは、戦のたびに常に苦しい戦況を強いられてきたわけではなかった。

 

 フェノバールは何代も王政が続いており、その血統が途切れたことはない。従って、ひとつの社会集団として、長い歴史を有していることとなる。

 

 フェノバールの王家とその血統を守ってきたのは、城を囲う高くて分厚い堅牢無比の城壁であり、また培ってきた攻城戦への備えだった。

 

 講義に参加しているぼくは、ほとんど借りて来た猫みたいであり、戦術を学ぶといっても、上官の説く事柄のほとんどが、どこか空想めいて聞こえ、あまり飲み込めないのだった。

 

 ブレイズはというと、机上に肘を突き、口元に手を添えて、俯き気味に、やや眉をひそめた険しい顔をしており、ぼくのようにうまく飲み込めず困惑しているのか、あるいはただ気分が悪いだけなのか、釈然としなかった。

 

 さて、だが、講義の要点は、戦術よりかは、喫緊の外向的憂患にあった。

 

 着々と勢力を強めている社会集団の存在が最近認知され、その脅威は日々迫ってきているという。

 

 その名を『真光教団』といい、新興宗教の結社であり、宗教騎士団を組織しているという。

 

 ぼくはその名を聞いて衝撃を受け、ミアと城跡で再会した時のことや、ブルーノが亡くなる前に聞かせてくれた話の内容が、サッと脳裡をかすめた。

 

 フェノバールが、ゲールフェルト村や、グルンシュロス城と、互いにどれくらい離れているか分からないが、いずれにせよ、教団の魔の手は近付いてきているという話だった。

 

 最初は、フェノバールの王家と教団の神職者という代表者同士で会談がなされ、何度か回数が重ねられたが、平行線をたどっており、そろそろ決裂するかも知れないという見通しだ。

 

 教団の話は、講義に参加している騎士と小姓の内の大半が、すでに聞き知っているもののようで、教団の話題が出た時、皆、心なしか、どこか不穏に思う面持ちになっていた。

 

 講義が終了して、自由にしゃべれるようになったら、ぼくは隣のブレイズに教団の存在について尋ねてみた。

 

「あぁ、知ってる」、と彼は即答した。

 

「実際に遭遇したことはないが、相当強いらしい」

 

「ぼくは、ちょっと知ってるんだ」

 

「本当か?」

 

「うん」、とぼくは頷く。「知り合いのひとが言ってた。新しく出来た宗教から立ち上げられた組織で、あらゆる他の宗教を攻撃してるって」

 

「排他的っていうのは聞いていたが、その通りなんだな」

 

「大丈夫なのかな。このフェノバールまでやってきたとして、ぼくらは、防ぎ切れるんだろうか」

 

「さぁな。それは何とも言えない。だが、答えはシンプルで、強い方が勝つに決まってるものさ」

 

 強い方が勝つ――そう言われて、ぼくが何となく強い方として浮かんだのは、教団の方なのだった。

 

 ゲールフェルト村を滅ぼし、ブルーノを傷だらけにした『真光教団』は、ぼくの中では、畏怖すべき対象だった。

 

 

 

***

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