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フェノバールには、古くより伝わる宗教があり、どの家庭においても、その宗教が信仰されていた。
城下町のひとつの教区につき、ひとつの教会があり、管理された信者がおり、定期的に礼拝や祈祷などの催しが成された。赤子が生誕すれば、洗礼が行われ、死亡者が出れば、葬儀が、宗教の理念・方式にのっとって執り行われた。
城下町には信仰の自由があり、指定の宗教の信仰を強制されることはなかったが、城下町全体に長い歴史と共に行き渡っている既成の宗教を選択しないというのは、実際のところ、難しいことであり、完全に不可能ではないにしろ、逸脱・孤立することに繋がり、天性の局外者や犯罪者を除き、今までまともにその道を選択した者はいないということだった。
――そのように、講義を受け持つ上官は話した。
そういうわけで、ぼくもブレイズも、フェノバールの町民となり、また騎士・小姓となった以上、フェノバールの宗教に入信し、信徒となり、習わしに従うようになった。
フェノバールは、『教団』とは、始め、協定の誘いがあったらしいが、フェノバール側の改宗という厳しい条件を必須の条件として示され、王家は難色を示し、話し合いは、ある段階でひとまず打ち切りとなった。
これでフェノバールと『教団』がはっきりとした敵対関係となったのかどうかは定かではなかった。
同じ道を歩むことをフェノバール側が拒んだ以上、今後いつ『教団』との間に有事が勃発しても、不思議はなかった。
緊張によるピリピリした雰囲気があるばかりで、まだ実際の戦争には発展していないとても寒い冬のある日のことだった。
ぼくとブレイズは、その他の騎士たちといっしょに城の塔の螺旋階段を上っていた。
また演習ということで、たいまつを持った上官に引き連れられているのだった。階段を上る騎士たちの甲冑がこすれる音が、塔の中によく響く。
長い階段を上り詰めた先は、恐ろしく寒いところだった。
てっぺんは、雪が降り積もっており、凹凸になっている胸壁の上部には、その形の通りに積雪し、段になっている。
寒いのは、高所ゆえであり、しっかりした装備の騎士たちはまだ平気だが、軽装のぼくら小姓たちは、まともに立っていられないほどだった。
「ここが――」、と上官が片腕を広げて示し、言う。「城壁の頂上である。敵との攻防を考慮して、他の城より壁が高くなっている。その分、城外の敵は攻略に手間取り、他方、城内の我々は、防衛戦がやりやすいというわけだ」
説明を聞いている間、騎士たちは比較的自由にその辺をウロウロすることが出来、ぼくは凍える体を抱いて胸壁まで行って、下を覗き込んでみたら、雪の粒が落ちていく地面が、ずいぶん遠くにあり、じっと見つめていると、吸い込まれそうになるのだった。
「成るほど」、とブレイズが、ぼくの背後より同じところを覗いて、ひとり納得するように言う。「ここから、弓矢で射たり、石を落っことしたりしてやればいいわけだ」
「防ぎ切れればいいんだけど」、とぼくは悲観的に返す。
よく見てみると、城壁の一部が、へこんでいるのが見える。大砲の痕だろうか。
その痕をじっと見ていると、ぼくは、どこか不安になっており、フェノバールが『教団』に対して敗戦するイメージばかり思い描いているとハッと気付いて、忌々しい思いに襲われるのだった。
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