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世間において、騎士階級はしばしば敬意をもって遇された。
というのは、騎士というのは戦闘員であり、有事の際に前線に出陣して、敵と争うためである。
騎士は、外部へ進攻して凱旋すれば、持て囃されたし、敵軍の侵略を受ければ、非常に頼りにされた。
彼らはいわば英雄であった。
勿論、中には劣った者がおり、そういう者は騎士の評判を下げたが、あまねく騎士は、騎士道を重んじねばならぬという『
だが、実際のところ、騎士というのは針の筵であった。
この戦乱の世にあって、戦はあちこちで頻発し、戦闘員であれば、いつどこで戦死しても不思議はない。
商売やものづくりなど、血腥い真似をせずとも暮らしを立てていける術があるという状況で、あえて騎士を始めとした戦闘員になろうとするのは、よほど志の高い者か、あるいは他の職にことごとく適応しそこねた問題者である。(だが、他が出来ないからといって、戦闘員の仕事が必ず出来るという保証はない。)
フェノバール城下町より、伝令の使者がひとり、馬を駆って城外へと出ていった。友好関係にある他の城下町との情報交換のためである。
時流は渾沌として、まるで読めなかった。あらゆる物事は流動的であり、固定していることがなかった。
戦争への危惧から、城下町には穏やかではないムードがあったが、実際に戦争が起きるには、季節の条件が悪かった。冬というのは、遠征するには、食料や天候の点において、かなり不便を被る季節なのだった。
ぼくとブレイズは、他の騎士・小姓たちと共に、訓練に邁進する日々を送っていた。
騎士になる前と比べ、ブレイズの体付きは、徐々に変化が加わり、どちらかというと痩せ型だった体が、訓練という度重なる肉体的ストレスを経て、たくましいものへとなっていった。骨が丈夫になり、各所の筋肉が発達した。
ある日の訓練が終了した。冬の短い日が暮れかかり、雪はやはり降っていて地に積もり、騎士と小姓は、長時間に渡る運動に、すっかり疲弊していた。
訓練を行った広場を離れ、城の武具置き場の部屋へと戻り、後片付けをしている最中のことだった。
「ずっと聞いてみたかったんだが」、とブレイズが鎧を脱ぎながら言う。「フリッツ。お前の故郷も、おれとおんなじで、メンドンなんだっけ」
ぼくは、ブレイズに対して「はい」、とへりくだった態度で返した。
二人きりであれば、フランクに接するところだが、他の騎士・小姓がいる手前、うやうやしく振舞った。騎士の上下関係は非常に厳しいのだった。
ブレイズは、ややいぶかるように眉をひそめると、「ちょっと待ってろ」、と言って、黙々と鎧を脱いでぼくに手渡し、ぼくは、受け取った鎧を人型の鎧立てに着せた。
やがて後片付けになると、ブレイズはぼくを誘導し、ひと気のない回廊の片隅へと連れていった。
「ったく」、と彼は不服そうに発する。「しゃべりにくいったらありゃしない。お前に敬語を使われると薄ら寒い感じがする」
「でも、他の騎士の前ではうやうやしく振舞えって言ったのはブレイズだよ」
「そうだ。その通りだ」
軽装になった彼は、頭を俯けて額に片手をやり、呆れた風の身振りをして見せる。
「おれが聞きたかったのは」、とブレイズは額より手を離し、顔を上げる。「メンドンからこのフェノバールまでの過程だ」
ぼくは、ブレイズの要求にいささかの重苦しさを覚え、暗然と固唾を飲み込んだ。
メンドンでのこと――つまり、意地の悪い地主のいる村での母との涙ぐましい日々を、改めて振り返り、ブルーノとの出会いと悲劇の別れを経て、リフレとの旅でフェノバールへ至るまでの長大なるストーリーを、説かないといけないのだった。
ぼくは、心中で抵抗を覚え、億劫になったが、隠す意味はないということで、拙いながら、自身の物語をブレイズに語って聞かせることにした。
騎士と小姓の仕事に明け暮れ、二人きりとなれる場面というのは、基本的に就寝の前などに限られており、ぼくとブレイズは、お互いの身空についてじっくりと話し合う機会が絶えてなかった。
だが、騎士と小姓の関係というのは、緊密であることが望ましく、従って、相互によく知り合っている必要があるのだった。
より打ち解けるという意味でも、小姓のぼくが、ぼく自身の苦楽、幸不幸を、仕える騎士に語るのは、全然悪いことではなかった。
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