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城の外へと出るのは、ぼくにとってはあまりないことだった。
というのは、小姓の生活というのは、騎士のサポートであり、騎士が城に常在する存在であるため、基本的に城中で全て完結してしまうし、休みという休みがないので、外に出る機会がまったくといっていいほどないのだった。
ただ、夜警の任務が言い下される時は例外で、その時は、城の外まで巡回のために出ていく。だが、回る順路が決まっていて、もし逸れれば違反となって処罰の対象となるため、自由に散策するなど出来ないし、そもそも、夜警は夜中の仕事なので、辺りは真っ暗で、たいまつがあるとしても、積極的に順路を逸れようという気にはならないのだった。
これといった持ち物も持たず、ぼくが城門に差し掛かると、衛兵が物珍しがるように話しかけてきた。朝のことだった。
「お前は」、と衛兵は、何か思い出そうとするように、しげしげとぼくを見つめて言う。「確か、ブレイズのところの小姓じゃないか」
「フリッツといいます」
「今朝はどうした。ブレイズのところにいなくていいのか」
「今朝は、ちょっと用事があって、出かけるんです」
「へぇ」、と衛兵はしみじみ納得する様子だ。「案外、小姓っていうのは身軽なものなんだ。俺も騎士をやっているが、もしこの先小姓を取るとしたら、どうだろう。あまり自由にはしたくないものだが」
「普段はちゃんとブレイズのそばに付いて働いていますよ。今朝は、ブレイズに許しを請うた上で出かけるんです」
「上官の許可は?」
「ブレイズがぼくに代わって話を付けてくれました」
「ふうん。そうか。まぁ、あまり遅くならないようにしろよ」
衛兵との問答は、どこか面白くないところがあり、ぼくはいささか気分を害した。ぼくは、自分がまるで、牢屋から出てはいけないのに牢屋から出た囚人の気分だった。解放感と後ろ暗さがせめぎ合っていた。
とにかく、グズグズしている時間はなかった。ぼくは城門を出ると、ミアのいる服屋への道を辿った。
ひょっとすると、まだ開店していないというおそれがあったが、行ってみると、すでに商品棚の窓が開いており、すでにある程度雪掻きされた店先で、ひとりの見覚えのある少女が開店の準備をしていた。
「ミア!」
ぼくが叫ぶと、彼女はハッとし、声を聞いただけでぼくの到来を察したようだった。
「……!」
一カ月以上の空白を置いての再会は、どこか感動的だった。
ぼくとミアは互いに駆け寄ると、ぼくは彼女の両手を取って、自身の両手で包み込んだ。
「久しぶりね。フリッツ」
「そうだね。ぼくは城に籠りっきりだったからさ、ごめんね」
「仕方ないわ。だって小姓はずっと騎士様のお側にいなきゃ」
ぼくたちは、旧交――というほどでもないけど、お互いを懐かしんで、しばし各自の身空話に花を咲かせた。ぼくは小姓のあれこれを聞かれ、話し、反対にミアは、服屋の娘のあれこれを話した。
彼女の容貌には、ブランクがたった一カ月なので、さほど大きい変化は見られなかったが、どこか大人びた風情を纏ったように見えた。面差しに深みがあり、背はまだぼくよりも小さいけど、口元にうっすらと浮かぶ微笑みが、亡くなった母のように慈しみを帯びていた。
――だけど、ぼくらの交わりは、一時的であり、また離れ離れにならないという物別れの予感が、それぞれが口にする言葉の語感に、微かに、悲哀を帯びさせているのだった。
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