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戦争は、個人がするものではない。
大勢の人々が、あるいは主体的に参加し、あるいは不可抗力で巻き込まれ、成り立っている。
戦争には、勇猛さ、悲惨さ、欲深さなど、種々の感情が渾然と入り混じっている。
戦争では、どれほどの強者でも、たったひとりでは勝つことが出来ないし、反対に、どれほどの弱者でも、属している組織が強ければ、必ずしも負けるとは限らない。
ブレイズが駿馬に乗って颯爽と、敵味方の入り乱れる戦場を疾駆する。
フェノバール近傍で、野戦が繰り広げられていた。わたしは一兵士として参戦し、前線に赴いていた。
ブレイズの威嚇で、敵方は、転倒したりふらついたりして、やや怯んだ様子を見せ、戦いへの集中が途切れたようだった。その隙を見逃さず、我々フェノバール軍は、鬨の声を上げ、即興的に隊列を成して、調子を崩した敵兵たちのところへ突撃し、各個撃破した。
相手方は、『救いの光』に属する方面隊で、フェノバールの近隣に拠点を構えており、この度フェノバールに宣戦布告し、小競り合いが勃発したのだった。
わたしが持っていた強いイメージにそぐわず、『救いの光』――短縮して、『光』と呼ぼう――の騎士団は、脅威というほどではないように思えた。
あちこちでフェノバール軍が歓呼の声を上げ、『光』の兵たちはあるいは斃れ、あるいは敗走し、広原での野戦は、フェノバールの勝利に終結した。
もちろん、日頃訓練することで向上した、市民すらボランティアとして参加している我々フェノバール軍の連携と士気の高さが、勝因としてまずあるが、宗教騎士団の兵とはいえ、生え抜きの成員でない、『光』の支配に屈しただけの服従者には、恐れるべき力はなく、その差が、勝敗を分けたのだった。
春が訪れ、野花が陽気に笑むようになったが、血腥いことは終わらなかった。青空は澄んでおり、春陽が爽やかに煌めいていた。
乗馬したブレイズが戻ってきた。彼が携えている槍の尖端には、鮮血がこびりついており、ポタポタと地面に滴っている。誰かを傷付けたその槍は、あるいは殺めたかも知れないが、戦争では致し方のないことだった。優しい心は、戦争では無用だった。非情さだけが、尊ばれ、人情など、すっかり忘れてしまわなければいけなかった。
「……」
彼は、撤退する敵影を黙然と見つめており、我々は、誰に言われるでもなく、争いの終結を確かに察知し、ぞろぞろと騎士のもとへと雲合霧集した。
「勝つには勝ったが」、とブレイズは独り言のように言う。「敵の侵攻を食い止めただけに過ぎない。戦果という戦果がないと思うと、虚しい気持ちになる」
彼の言葉を聞いた者は、皆、暗い面持ちになった。
誰かが、「敵兵を人質に、身代金なんかせしめられないですかね」、と訊いた。
ブレイズは首を左右に振り、「『光』の連中が、重用していない末端の兵士のために、身代金を払うとは到底思えない。見殺しにするに決まっている」
「帰りましょう」、と誰かが呼びかけ、我々はそれぞれ頷き、城下町への帰途に付いた。
争いに勝つには勝ち、その意義は弱かったが、誰もが、また町へと帰れることに、喜びと安心を見出しているようだった。
ほのかに和やかさが、我々の間に漂っていた。
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