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野戦を終えて城下町へと帰還し、ブレイズが手を顔の高さほどに挙げると、町民は勝利を察し、拍手喝采で我々を迎えた。
戦果という戦果はないものの、城下町の平和を守れたことは、町民にとって悦ばしいことに違いなく、夜はきっと、宴が催されることだろう。
「フリッツ!」、という呼び声がした。
わたしは声の主を探すと、ひしめき合う人混み中に、わたしの知っているひとりの女性を見つけた。服屋の娘で、褐色の髪を長く伸ばし、自作したという、上半身から脚まで一体となったドレスを着ている。腹部にはコルセットがあり、体型をスマートに見せている。
その面立ちは、まだ子供の頃のあどけなさを残しているが、わたしと同じく
やや高めの小さい鼻の下で、彼女の口は一文字に閉じ、互いに近くも遠くもない両目は、光を受けると髪と同色に輝く。
彼女は――ミアは、わたしを隊列の中に発見すると、相好を崩し、手を振って見せた。
彼女には、ゆえあって家族がおらず、今では服屋の主人、及びその家族が、肉親の代わりとなって、彼女の保護者の役割を担っている。
わたしは照れ臭さがあったが、同じように手を振ることで、ミアに応じた。
町民たちの気分は、完全に祝勝のムードで高まっているようだったが、ちらほら暗然とした表情の者が見え、わたしは事情を察し、胸苦しさを覚えた。浮かない顔の彼らは、戦勝に寄与した犠牲者の身内なのだろう。
町民たちの間を行進して、我々は城まで帰り着き、まずは、フェノバールの王である城主まで、戦の顛末を報告しに行った。
王は、二十を少し過ぎたブレイズとさほど年齢が変わらず、最近、年配の父より王位を継承したばかりで、王という位にしては、威厳が足りなかったし、ブレイズを始めとして何人かの騎士たちと、年齢が同じか近いので、彼らと封建的主従関係というよりは、むしろ、ずっとくだけた友人同士の関係に近いものを持っていた。
だが、豪華に設えられ、装飾された王座の間においては、ブレイズも王も、絶対的ルールである主従関係を守っていた。
「『光』の騎士らに勝ったようだな」、と、低い階段の上の黄金の王座に腰を下ろす王が言う。「まずはご苦労であった」
「はい」、と片膝と片手の拳を床に突いて、ブレイズが敬意と共に答える。「ですが、侵攻を食い止めたのみで、目覚ましい戦果は挙げられませんでした。『光』側の者共も、高い士気を持たない、取るに足らない雑兵たちでした」
わたしたちも、同じ姿勢で、静粛にしていた。
「守るだけの戦いというのは、確かに得るところは少ない。だが、勝ちを重ねていくことで、いずれは苦労に相応しい報いが待っているはずだ。とにかく、勝つことで我々の町を守ってくれて、深く感謝する」
そう言って、王は頭を下げた。そのねぎらいに対し、わたしたちは、もともと下げている頭を更に下げることで、王への敬服を示した。
王は、今でこそ目立つ色の貴人の服を着、冠を被っているが、かつてはブレイズと共に戦場を駆けた騎士なのだった。
戦った相手は、犠牲者が多数出るほどの難敵ではなく、また、勝利は酔えるほどの喜びのないものであったが、わたしたちは、ひとまず安堵して、夜の宴に加わってよいようだった。だが、同時に、亡くなった戦友の弔いを忘れたり、怠ったりしてはいけないのだった。
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