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春の陽気が麗らかだった。
戦争というほど規模の大きくない、小競り合いが終わり、城下町一帯は、とりあえずの平穏を取り戻した。
勝利したその夜、祝宴が早速催され、酒類とご馳走が用意され、人々は互いにざっくばらんに打ち解け、興じた。わたしも含め、皆、哄笑し、お腹がいっぱいになるまで、肉を食い、フラフラになるまで酒を鯨飲した。わたしはもう飲酒出来るようになっていた。
あくる朝は、教会で戦没者たちの葬儀が神職者の主導で執り行われ、墓地に亡骸が埋められた。昨夜とは打って変わって、皆の顔は静かで、厳粛に、戦で果てた同胞の魂を哀弔した。
戦没者合同の墓石では、春風に揺れながら、白い花がしめやかに笑っている。生命を育む息吹が、死者の霊前に献上された花に吹き寄せるその情景は、眺めていると、感傷的にさせるものがあった。
わたしは、墓地の中でひときわ大きく、また広い場所にあるその戦没者があまねく埋葬されている墓石の前にかがんで、お供え物の白い花々を見つめていた。指の背でその花弁に触れると、とても繊細な感触がする気がした。
「戦いは、激しいものだったの?」
わたしのやや後ろで、少女が尋ねてくる。ミアだ。
「いや、激しいというほどのものじゃなかったよ。相手の士気は低かったし、小競り合いは快勝で終結した。ブレイズが大活躍さ。でも――」
わたしがそこで立ち上がると、フッと、風が後ろより吹いて来、わたしのやや長くなった髪の内、側頭部の髪が、顔の方へとなびいてきた。
「敵と直接交わる以上、傷付くことは避けられないし、死ぬことだって、同じさ」
ミアが、前に出てきて、わたしの肩に、微かに寄りかかってくる。
「フリッツは、きっと、ブルーノさんのことを想っていたのね」
「うん」、とわたしは照れ臭さを覚えながら、頷く。「よく分かったね」
「ううん」、と彼女は首を左右に振り、微笑んで見せる。「ただの直感よ」
ミアの薄褐色の髪も、数年前とは趣が変わって、長くなり、今では背中までかかるほどだ。
彼女はこの数年の間に、髪を整え、飾る技術を磨き、前の癖毛が伸び放題だった髪が、今では、しゃんとし、落ち着いたシルエットにまとめられており、雰囲気を大人びたものにしている。
わたしは時々、ミアに対し、ドキッとすることがあり、みずからの内面に好意を発見するのだが、彼女とは長く親しく付き合っていて、この慕情が、親愛のものなのか、性愛のものなのか、よく分からないのだった。わたしたちはただの親しい他人同士に過ぎず、恋人同士ではなかった。
「ブルーノのお墓参りに、結局行けてないなぁ、って思ってさ」
と、わたし。
「懐かしいわね。コンラートさんと、メルさんのいる村」
「うん」
わたしは短く頷き、半歩ほど後退してミアより離れ、両脇腹に手を添え、空を見た。
墓石越しに見える、たゆたう雲が、たんぽぽの綿毛のように、ふんわりとした形で、夢見るように、ゆっくりと蒼天を流れていく。
「何を見てるの?」、とミアが振り向いて訊いてくる。
「天気を読んでるのさ」、とわたし。
「邪推だわ。こんなに晴れていて、気持ちいいのに」
ミアの言う通りだった。
束の間かも知れないが、この平穏に過ごせる時間が、わたしにはとても、愛おしかった。城下町の皆も、きっとそう思っているだろう。
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