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わたしの身分はまだ小姓だった。とはいえ、騎士の御用聞きに留まらず、みずから武装して戦争に出撃するようになった。
武術と戦略を学び、仲間たちと連携し、指揮官の指示を確実に理解し、場合によっては自己判断で動いた。
戦争においては、もちろん傷害を負う、負わせるということは避けられないことであり、何度も怪我を負い、危難に際会した。死ぬことを覚悟したことがあったし、すぐそばで味方が絶命するのを目の当たりにした。
今わたしがこうして生き延びているのは、幸運に違いなかった。わたしは決して強者ではなかった。戦士としてもそうだし、ひとりの人間としても、男としても、わたしはひ弱だった。
過日、ブルーノと共に、滅ぼされ、賊が金品を漁るようになったゲールフェルト村に忍び込もうとした時――当時まだ十歳に過ぎなかった――わたしは、見張りらしき賊のひとりを、短剣で貫いて暗殺した。
あの時わたしを圧倒した恐怖と緊張は、戦場に赴くようになった今となっては、わたしにとって、当時ほど強烈ではなくなり、結局、わたしは年齢と場数を重ねることで、ある程度、戦士の生活に、順応したのだと思う。
「フリッツ~」、とくだけた感じで、ブレイズが呼ぶ。
晴天の下、わたしは水場で洗った、籠に満杯の洗濯物を、バルコニーの物干し用のロープへ、天日干しのために通しているところだった。バルコニーは日当たりがよかった。
わたしが振り返ると、ブレイズが困った表情で、衣服を両手の指で摘まむように持っていた。
「胴衣が破れたんだが」
「あぁ、ホントだ」
わたしは洗濯物を干す手を止め、ブレイズのもとへ歩み寄り、彼が見せる胴衣を受け取って、しげしげと見てみた。キルティング生地のそれには、みっともないくらい大きい裂け目が出来ていた。きっと、戦争で受けた損傷などが悪化して開いたのだろう。
「新調するのがいいんだろうか」
「新しく買うなんて、お金が勿体ないよ。たとえ金銭的余裕があるとしても、無駄遣いはやめよう」
「じゃあ、どうするんだよ、これ」
「直せるよ。裁縫はぼくら、にんげんの文明のひとつさ」
「裁縫って、お前がやるのか?」
「ぼくは出来ないけど、ミアならきっと出来る」
「ミア……あぁ、お前の古い馴染みか」
――ブレイズは、じかに顔を合わせたことはないが、わたしが何度か話に出したことで、間接的に、彼女を知っているのだった。
「服屋の娘だっけか」
「うん。本当の娘じゃないけど」
「まぁ、何でもいいが。とりあえず、これ、よろしく頼む」
そう言い残し、ブレイズはくるりと向きを変え、片手をヒラヒラと荒っぽく振り、立ち去ろうとする。
「すぐ直す?」、とわたしは、やや声高に彼の背中に問いを投げる。
「代わりがあるから、今すぐにとは言わない。何着かローテーションしてるから」
「分かった」
ブレイズは立ち去り、わたしは、裂けたやや臭気のある胴衣を適当に丸めて足元に置くと、止めていた天日干しの作業を再開した。
洗濯物越しに、城の翼に挟まれた、バルコニーの向こうの景色がチラチラ見える。開けた景色だ。自然の豊かではないフェノバールは、人々の建てた建築物で犇めいている。ずっと向こうには、堅牢無比の高い城壁があり、夕の遅い頃になると、すっかり日差しを塞いで、町は陰に覆われる。
太陽は、今は空の見えるところに浮かび、まばゆい光輝を放っている。
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