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落ち込んだ気分で村中をぶらぶら歩きした後、ギルドハウスへと戻った。
ちょうど、ブルーノとおやじが受付でやり取りしているところだった。
ぼくはおやじと目が合い、互いに軽く頷き合うと、ブルーノが遅れてぼくの帰ってきたことに気が付いて振り向き、「おぉ」、と驚いたように、また同時に、待ち侘びていたように、言った。
「ちょうどいいところに帰ってきたな。フリッツ」
とすると、ぼくの帰来は、早すぎも遅すぎもせず、ということらしい。
物事というのは変なところでうまく運ぶものだ。
その僥倖とは裏腹に、しかし、ぼくの面差しは翳りを帯びていただろうと思う。だから、最初笑顔だったブルーノが、すぐに怪訝そうになるのは無理もなかった。
「どうした、冴えないツラして」
「ううん」、とぼくは首を振って否定する。「何でもない」
「本当か」
「本当」
「落とし物でもしたんじゃないのか」
「してないよ」
「まぁ、いいさ。またあの時みたいに辛気臭いツラしてるから、ちょっと勘ぐっちまっただけだ」
「ごめん」
「そんなことはどうだっていいんだ。それより、聞けよ。見つかったんだぜ」
そう嬉しそうに言って、ブルーノはぼくを手招きする。
ぼくは彼のもとまで行き、受付のテーブルに開かれた分厚い帳面を、背が低いので、首を伸ばして窺う。
「面白い仕事の依頼が来たところで、ちょうど人手を募集してたんだ」
「この仕事なんだがね」
受付のおやじが帳面をぼくの方に寄せて、ページのあるところを指さしてくれる。
依頼人の名前・シュトラウス。
依頼日時・某月某日。
依頼内容・娘のリーザをグルンシュロス城下町に住む某氏の邸宅まで護送すること。
ざっとこういう感じで、後は報酬内容や、注記が書いてあって、要は、この村に住む一人の女性を城下町までエスコートせよ、ということらしい。
「旅費やら何やら入用だが、その辺にかかるコストは、報酬に上乗せしてくれるらしい」
「だけど、どうやってエスコートするの? まさか、みんなで歩いていくの?」
「そりゃ、マズいだろう。仮にも女性、それも、ちょっとした富豪の令嬢だからな。特別扱いしてあげないと。馬車でも借りようかと思うけど、どうかな」
「富豪って、この村の?」
「そう」
と、おやじが口を挟む。この村のギルドハウスの案内人らしく、事情通と見える。
「この村の豪商と言うのかな。シュトラウスという殿方がおられて、職人を雇ってものづくりをさせ、その加工品を取り扱っているんだな」
「色々手広く作らせて、儲けてるらしいぜ。こんな小さい村で、よくやるよ」
ブルーノが、いささか気に食わないというニュアンスを込めてそう繋げる。
リーザか。どういう女性だろう。若いのだろうか。そうでもないのだろうか。綺麗だろうか。そうでもないのだろうか。
話半分でしか聞いていない注意散漫のぼくは、切れ切れの言葉から自分が関心を持つ、ないしは自分にとって都合のいいものだけを摘出し、ぼんやりと想像を膨らませた。
すると、ミアの姿がおぼろげに浮かんで来、彼女を護送するのであれば、どれだけ張り切れるだろうかと恍惚として思うのだった。いっぱい優しく接して、いっぱい奉仕してあげて、彼女に気に入られたいものだ。
二人の大人が仕事についてまじめに対話しているというのに、そのかたわらで、まだまだ幼稚なぼくは、ろくに聞きもせず、上の空で、いたずらに妄想に耽るのであった。