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ブレイズに頼まれた用事のため、わたしは城外へと出かけることにした。
太陽はまだ城壁の上にかかっていた。
城壁は、町の中央にそびえるフェノバール城の周囲の城郭と、城下町の周囲の城壁のふたつあり、要するに二重城壁の構造となっていた。
わたしは塔を出、庭を行き、門番に事情を簡単に説明し、堀に掛かる橋を渡った。
春という季節の陽気に励まされ、また、直近の敵との戦勝の余韻があり、城下町は活気に満ちていた。子供たちは走り周り、花屋の店では、種々の花々が商品として展示され、吟遊詩人が楽士と共に、人だかりの前で、歌曲を披露していた。
商店の並ぶエリアを、そういった愉しい光景を横目に抜けると、わたしは、職人の集まるエリアへと移動した。
ミアのいる服屋はこのエリアにあった。
店に着いた時、わたしは春の陽気で少し汗ばんでいた。
手で額の汗を拭い、挨拶すると、ミアが現れ、じきじきに応じた。服屋は正面に簡易式の露店を出し、商品台に、布を並べ、宙にかかるロープには、売り物のチュニックなどの衣服が吊り下がっていた。
「やぁ」、とわたし。
「あら、フリッツじゃない。どうしたの?」
「今日は、ちょっと暑いね」
「そう?」、とミアは涼しい顔で小首を傾げる。「ずっと部屋の中で仕事してるから、よく分かんないわ」
「汗ばむくらいさ」
わたしがそう言うと、ミアは露店の陰より首を伸ばして空を見上げる。
「この晴れ方じゃ、フリッツの言う通りかも知れないわね」
わたしは携えてきたブレイズの裂けた胴衣を見せた。ミアは伸ばした首を元へ戻した。
「今日は、服の補修を頼みに来たんだ」
「あぁ、破れちゃってるわね」
「直るかな?」
「勿論。任せて」、とミアは自信満々に微笑んで見せる。「服の破れの縫い合わせくらい、朝飯前よ。もう昔の、糸紡ぎばかりやってた新人じゃないんだからね」
わたしも釣られて笑みがこぼれた。
「ぼくのじゃなくって、ブレイズの胴衣なんだ」
「ブレイズさん、そう、分かったわ」
わたしは胴衣をミアに手渡した。
ミアは胴衣を受け取ると、明るかった表情を落ち着いたものにして、じっと見つめた。
「イヤね」
「イヤ?」
「この服の裂け目、きっと戦いで出来たものでしょう」
「……そうかも知れない」
わたしとミアは、しばらく、戦争を案じ、薄暗い雰囲気に包まれたが、その内、ミアがパッとまた微笑んで、こう言った。
「平和が一番ね」
わたしも微笑み、「そうさ」、と返した。
「フリッツは平気?」
「平気って?」
「服とか、靴下とか、ご飯とか、色々」
「ぼくは、大丈夫。今は何の命令も知らせもないから、ずっと城に籠りっぱなしさ」
「そう、よかった」
ブレイズの胴衣を胸にやんわりと両腕で抱き持っているミアは、安堵の表情を見せた。
もう何度もわたしが戦争に出て戦うということを経験しているはずなのに、彼女はまだ、いつも、いつでも、わたしの安否が心配の種のようだった。
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