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戦争というものは、今も昔も、その本質は変わらない。
領土を拡張したいとか、経済活動として略奪したいとか、ある宗教の発展のために信徒を増やしたいとか、そういう欲求、野望を動機付けとして、血が流れることとなる。
わたしがまだ幼少だった頃と比べると、世界は、より峻厳になったという気がする。戦争が、死が、親しいひとたちとの別れが、以前より身近になった。
戦争が繰り返されることで、武器が改良されるか、又は新たに開発され、戦術が刷新され、旧習に甘んじているところは、ことごとく滅ぼされた。
その事件は、ある日突然、雷撃の如く、フェノバールの町に落ちた。
『光』(※1)の軍勢が、ある日攻城戦をわたしたちに仕掛けて来、わたしたちは籠城して、城郭より迎撃していた。
宣戦布告がなく、奇襲に近い形で、彼らは攻め寄せ、時間は早朝で、わたしたち、フェノバール兵団は、夜警の任務に就いていたものはキビキビと応戦したが、わたしとブレイズを含め、他の兵士たち、騎士たちは、半分寝ぼけて、押取り刀で駆け付けた。
大声がわたしの寝ている寝室で叫ばれ、わたしを始め、ブレイズ、他の者たちはびっくりして飛び起きた。
「一体何だっていうんだ」、とベッド上のブレイズが、寝ぐせの付いた髪で半べそをかいたように言う。
「敵襲です! ブレイズ殿」
「何!? どこの勢力だ」
「『救いの光』です!」
敵襲と聞き、それも宿敵の来襲と聞き、室内はにわかに落ち着きを失い、ざわついた。頭の回転の速い者は、機敏に寝床より出、小姓に武具の用意を命じるなどし、出撃の準備に取り掛かった。
「宣戦布告もなしに攻撃してくるとは、やつら、騎士のくせして、ずいぶん外道に堕落したようだ」
「急ごう」、とわたしはベッドより飛び出、言う。「のんびり朝ごはんを食べる余裕もない」
わたしとブレイズは、阿吽の呼吸で互いに指示を出し・聞き、敏速に用意を整え、城郭まで軍馬に乗って急いで向かった。
危地を察してオロオロ不安そうにしている町民が見えたが、城のある中央部より外縁の城郭まで、まだ半分眠ったままの街中を馬で駆けながら、内心では、負ける気がしなかった。何となれば、フェノバールの城郭は高く堅牢であり、長い歴史の間、突破されたことがないからである。
城郭付近へ来ると、後方で控えている小姓などがおり、わたしたちを見ると、挨拶してきた。
城門は堅く閉じ、外に来ている敵の気配は、うっすらと感じられた。
わたしもブレイズも、控えの者たちに挨拶を返し、壁の前で馬を下り、城郭の塔をのぼった。
城郭のてっぺんに来ると、まずわたしは、まばゆい朝日が平原の彼方の地平線に見え、目がくらんだ。
状況を尋ねると、フェノバールはしっかりと持ち堪えており、優勢のようだった。
わたしもブレイズもその言を聞き、ひとまず胸を撫で下ろした。
下方を見下ろすと、城壁の攻略に手間取っている『光』の騎士たちが見えた。彼らは、あるいは矢に射られ、あるいは投石を食らい、続々と撃退された。
戦況は明らかにフェノバールに有利であり、『光』の方は、最早哀れとさえ言えるくらいだった。
だが――。
彼らは、度重なる被害にも関わらず、なぜか猛進して来、その気勢に、わたしはどこか薄ら寒くさせるものを感じた。
悪寒だった。
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(※1)=『救いの光』のこと。新興宗教組織。元は『真光教団』と名乗り、後に改名。強力な宗教騎士団を構成する。