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ドン、という音が遠くに聞こえた。
始め、わたしは、それが何の音か特に気に留めなかった。目下わたしは、戦闘に集中し、持っている弓の弦を引き、梯子を用いて城郭をのぼってこようとする命知らずを、頂上より次々と射ていった。
ふと、ものすごい衝撃音と揺れが、出し抜けに、足元を訪れ、わたしはよろめき、ドスンと尻餅を付いてしまった。空は青く澄んでいた。
地震でも起きたのだろうかと思ったが、違うようだった。なぜなら、ドンという音と衝撃音と、何か固いものがガラガラと崩れ落ちる音が、間を置いて繰り返されるからだ。
喚き声が上がり、その声は、どうやら敵のものではないと分かるまで、ちょっと時間が必要だった。
わたしはにわかに焦燥感を覚え、壁より身を乗り出して音源を探った。
すると、わたしは驚きで目を見張った。
堅牢無比のはずのフェノバールの城壁が無残にへこんでいるのである。
状況を早急に把握しようとしたが、地表にいる敵兵の矢を腕に受けて手傷を負い、一旦退いた。
「だいじょうぶですか」、と味方の兵が尋ねて来、わたしは、無理矢理刺さっている矢を引き抜いて、頷いた。出血し、熱を伴った疼痛がした。
「一体全体、どうなっているのですか?」、とわたし。
「分かりません。どうも『光』の連中の仕業のようですが、ひょっとすると、奴ら、新兵器でも用いているのではないかと」
「新兵器……?」
傷付いたわたしがしゃべっている間にも、凄まじい音が続き、戦況の急転を思わせた。
ブレイズが駆け付けて来、わたしの出血を見て、心配する様子で「怪我したのか、フリッツ」、と尋ねた。
「ぼくはだいじょうぶ」、とわたし。「状況が変わったみたいだね」
「あぁ、『光』の奴ら、やけに前進してくるかと思ったら、秘密兵器を持ってやがったというわけだ」
「ひとまず下までおりよう。頂上はもう安全じゃない」
ブレイズはコクリと頷き、部下のひとりに銅鑼を叩かせ、後退の合図とした。何人かは、見張りと伝令のために城郭に留まった。
――ゾロゾロと群れて城郭の階段を速足で下りながら、わたしは、腕の傷がズキズキとうずくのを感じた。また、この戦闘の展開がフェノバールにとってよくないものになるという気が漠然として、その予感に更に腕の傷の痛みが増すようだった。
やがて地表まで来ると、ブレイズは、町民を避難させるように命じた。
すでに轟音を聞いて駆け付けた町民がチラホラ下り、わたしたちの浮かない顔を見て、窮境を悟ったようだった。
城壁の内側にいることで、外側から進行してくる『光』の攻勢が、わたしたちにはよく分からなくなった。詳しいことは、伝令のメッセージを待たないといけなかった。
轟音が、繰り返し、響く。
ブレイズとわたしを始めとした、騎士たち、兵士たちが、じっと佇んで、城郭の方を見つめている。その中には、過日、冬に試合した騎士たちがおり、あの時は、互いに嘲罵し合い、仲違いしていたが、今では、頼り合う気の置けない仲間となっていた。
そもそも、『光』との戦況は、始めは有利に進んでいたものの、いつの間にか、味方に対する悪意など持っていられないほど、厳しいものとなっていた。
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