さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第263話

***

 

 

 

 戦争の形勢が逆転し、最近まで勝利に湧いていた城下町の軍勢が、ほとんど意気阻喪しきって敵に圧倒される局面へと追いやられるなどと、誰が想像出来ただろうか。

 

 轟音が続き、フェノバールの城郭は、とうとう破られ、風穴が空いた。

 

 内側で息を呑むわたしたちは、その時の訪れが――味方に付いてくれていたはずの軍神が、わたしたちに背を向けることが、うっすらと予覚されていたという気がしなくもない。

 

 『光』の勢力が大挙して押し寄せて来、女性や子供などの非戦闘員の喚き、叫び、悲鳴が上がり、わたしたちは体を張って、町を守り切ろうと、覚悟を持って応戦した。ブレイズは軍馬に乗り、指揮官として、士気を下げないように、鬼神のごとく勇を鼓し、猛然と戦った。

 

 だが、敵勢が要する台車にのった筒状の何かから発射される金属の玉が、非常に脅威だった。

 

 それは、基本的には、壁や地面に向かって発射されるのだが、何かに触れた途端、爆風と共に破裂するのだった。

 

 『光』の勢力は宗教騎士団であり、軍馬に乗った騎士たちが、オーソドックスに白兵戦を仕掛けてくるが、その中に、専属の兵士が操るあの金属の玉を撃ち出す台車があり、わたしたちは、注意が逸れがちだった。目の前の敵と戦いながら、いつ自分のそばにあの玉が発射されて落ちて来、激しく爆発するか、ひやひやしていた。

 

 『光』の攻勢や、士気や、団結力などは、以前の比ではなかった。彼らは、まるで獲物を見つけ、しとめようとする肉食獣のように、冷徹に、また、獰猛に、無慈悲に、フェノバールに攻め込み、制圧しようとしていた。

 

 ひょっとして――とわたしは考えた。

 

 今まで何度かあった、張り合いのない、油断を誘う『光』の感じは、計算の上でのものだったのかも知れない。

 

 つまり、彼らは、わたしたちを攻略する上で、油断させるために、手を抜いていたのだ。実際は分からないが、それが事実とすると、彼らは相当、周到だ。

 

 すでに、数々の民家が爆風に晒されて損壊されており、戦争は無辜の町民まで巻き込んで阿鼻叫喚の有様を呈そうとしている。

 

 わたしは、腕の傷の痛みを耐えて、力一杯剣を振りぬき、敵のひとりを、相手の反撃を鎧に受け止める形で斬殺すると、ふと、やや近いところに、子供の姿が目に入った。

 

 少年だった。彼は号泣しており、身近に親の姿は見当たらない、崩れた家のそばでほとんど這う姿勢だった。怪我をしたのかも知れないし、この切迫した状況で気が動転しているのかも知れない。

 

 ――ドン、という轟音が鳴った。わたしは悪い予感がサッと閃き、宙を見上げると、あの金属の玉が、弧を描いて飛んでいるのだった。

 

 わたしは息が止まりそうになりながら、一散に少年の方へ飛んでいこうと思ったが、間に合いそうになく、座り込むように小さく縮こまって頭を手で地面に押さえ付けた。

 

 激しい爆音がし、熱く勢いの強い爆風を浴びて、わたしは、思わず目を瞑った。凄まじい威力だった……。

 

 爆風がある程度治まって目を開けると、前まで崩れかけだった家屋が完全に崩壊し、イスやテーブルなど、内装が露出していた。爆風が破壊した物体の大小の破片を含む砂埃が当りを濃密に舞い、得体の知れない臭気がその中に混じっていた。

 

 あの少年は――? 砂埃の中に紛れて、わたしは地を殴った。悔しさからだった。彼はどうなったのだろう。爆風に吹っ飛んで死んでしまったのだろうか。それとも、運よく生き残っているのだろうか? 親は無事なんだろうか?

 

 ……だが、これはくだらない感傷なのかも知れない。今わたしがすべきなのは、わたしたちの領域を侵そうと攻めてくる敵の撃退であり、同情や悔恨なのではなかった。

 

 腕が痛い。胸も痛い。体のあちこちが痛い。

 

 この戦争は、とても先行きが暗い。どうすればいいのだろう。わたしたちは、どうなってしまうのだろう。

 

 そう思い屈して、わたしは、掌中にある剣の柄をギュッと握り直す。

 

 

 

***

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