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『光』との戦いは、籠城戦ともつれ込むこととなった。
敗走したわたしたちは、敵の追尾よりどうにか逃げ延び、ブレイズが城の裏手へと回って、胸壁の見張りに合図を送り、おろされた跳ね橋を渡って入城した。
抱えられたわたしはもう大丈夫と言い、おろしてもらった。腕の傷は、痛みがまだ残っているが、出血がずいぶんマシになったようだ。
これで少しは人心地が付くというものだが、呑気に構えるわけにはいかなかった。
何名か、やさしい気心の持ち主たちは、撤退しようというブレイズの指示に反意を持って、隊を抜け出し、個々に町民の救難に向かった。彼らがその後どうなったのかは、知るよしもないが、戦況を鑑みて、いい経過を辿ったと思うのは浅薄だった。
肩で息をしながら、誰もが浮かない面持ちで沈黙していた。
「逃げ延びることには成功しましたが」、とひとりが呟く。「果たして耐え抜けるでしょうか」
「耐えるのではない」、とブレイズ。「敵を打ち払うのだ」
彼の語気は強いものではなかった。顔はやや青ざめ、勢力の挽回を期して戦略を練るものの、五里霧中という具合のようだった。気運はすでに落ちていた。
「フリッツ」、とブレイズが呼びかける。「ちょっと頼まれてくれ」
「うん」
「王のところまで行って、賢慮を仰いでくるのだ。この戦いに関して、負けるかも知れないということを伝えた上で、だ。王も、大体の戦況はお知りだと思うが」
「……分かった」
わたしは、厳粛に答えた。
空気が重々しかった。堅牢で高い城壁の内側にあって、安心など程遠い戦況なのだ。
「その間に、わたしたちは戦術を考案する」
「策はおありなのですか?」、とひとりの騎士。
「こちらには地の利があり、城内には糧食の貯えがたくさんある。籠城戦の性質を考えれば、必ずしも悲観ばかりの戦況ではない」
「確かに、おっしゃることは分かります。ですが……」
ふと、誰かのやってくる気配がした。馬に乗った味方の騎士だった。慌てた様子で近付いて来、戦況の不利はすでに城内にまで伝わっているようだ。
「上官殿!」、とその騎士。「ご無事のようで」
「あぁ」とブレイズ。「決して悦ばしいことではないが」
「状況は芳しくないようですね」
こくり、とブレイズは渋面で頷き、わたしに早く行けというように目配せする。
わたしが行こうとすると、騎士が呼び止め、行きかけたわたしは振り向いた。
「今、救護の者を呼びましたが、傷の手当てはよろしいのですか? 傷を被っておられるようですが」
わたしは矢を受けた腕の傷を確かめた。その時になってようやく、まじまじと見た。装着しているのがライトアーマーで、守られていない部分をやられたのだった。服に覆われているだけの傷の部分は、深く浸み込んだ血が半分乾いた状態で、赤黒く染まっており、痛々しかった。
わたしは傷の部分を反対の手で握り、「大丈夫」と強がりを悟られないように笑顔で答えると、正面に向き直り、速足で進んだ。
町民たちの安否――ミアの安否。『光』の進攻の状況。被害の状況。傷の程度。将来のこと。ブルーノや母の面影。わたしには思いを巡らせることは夥しくあり、気ぜわしく、雑念に惑わされ、中々落ち着くことが出来なかったが、兵士として、上官の側仕えとして、とにかくまずは、下された命を成すことを優先することにした。
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