さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

266 / 451
第266話

***

 

 

 

 城中を駆け回り、詳しい戦況を知らない者に、何度も話のために足止めを食らって、わたしはようやく、城の最上部の玉座の間まで到達した。

 

 衛兵に挨拶し、大きい二枚扉を開け、緊張感と共に、中に入る。

 

「陛下!」、とわたしは、広くて長い玉座の間の向こうの壁まで届くよう、声高に呼びかけた。

 

 玉座の間は、広いアーチ窓が連続していて、陽光が差し込んで明るい。

 

 真紅のカーペットが、扉のあるところより、階段を経て、玉座へと敷かれている。カーペットの両側には、護衛の騎士が威儀を正して並んでいる。

 

 玉座には、王の子息が、王の代わりに座っており、まだ幼く、言葉さえ解さない子息は、絢爛たるドレスを纏う王妃と、乳母に囲まれて、子息にはあまりにも大きすぎるその玉座で、無邪気に戯れていた。

 

 子息はあくまで、天真爛漫に過ごしているが、他方、彼の面倒を見る大人の女性たちは、柔らかい微笑みに、微かに憂色が見え、影を差していた。

 

 カーペットと同じ真紅のマントを羽織る王はというと、あるアーチ窓のそばで、外に目を遣って、腰の後ろで手を組んで、何か物思いに沈んでいるようだった。

 

 王はわたしの来訪に気付くと、姿勢を変えず、「待っていた」と言った。

 

 わたしは恭しく答えると、そのそばまで行き、跪いた。

 

「きっと」、と王が言う。「ブレイズが貴君を遣わしたのだろう」

 

「仰せの通りです」

 

「戦況は芳しくないようだな。伝令の者がすでにことのあらましを知らせている」

 

「……敵方の未知の兵器が出現したことにより」、とわたしは、おずおずと説明を始めた。「それまでの有利だった形勢が一気に逆転。城郭が打ち破られ、『光』の突入を許し、戦いは民を巻き込んだものとなりました」

 

「やれやれ」、と王は苦笑を零す「情けないことだ」

 

「わたしの力が及ばないばかりに……」

 

「戦争は個人がするものではない。貴君が気に病む必要はない」

 

 微かに、またあの新兵器の音が、遠くの方に聞こえる気がする。ドンという音で、金属の玉が飛び、高熱の爆風を巻き起こす。

 

「ブレイズは何と貴君に言ってここへ寄越したのだ」

 

「この戦況を鑑み、今後の命をくだされたいと」

 

「彼奴は、いやしくもフェノバール兵団の上官ではないか。まして現場にいて戦ってもいる。戦場に赴かず、戦況を熟知しないわたしなどの判断を仰いでどうするというのか」

 

「……」

 

 わたしは返事に窮し、口を噤んだ。

 

「わたしがじきじきに出るのがよさそうだ」

 

「……?」

 

 わたしは耳を疑ったが、王は窓より離れ、王妃の方へと向かった。わたしは王を目で追った。

 

「あなた」、と王妃が心配そうに、王に呼びかける。「戦場へおいでになるのですか」

 

 王と王妃の話は、距離があってやや聞き取りにくい。

 

 子息は依然として無邪気にはしゃいでおり、近付いてきた王の腕を掴んで遊んでいる。

 

「あぁ」、と王。「民が大勢犠牲になったに違いない。どの道逃げ場などないのだ。それに、わたしは元々騎士だったのだ。戦うことに対して、引け目はない」

 

 王は武具を用意するよう、王妃に言い下した。

 

「分かりました」、と王妃が青褪めて答える。

 

 王自身が戦う。ブレイズとかつて同輩だった王が。そう思うと、わたしは、身が希望と不安の両方で引き締まり、また慄いた。

 

 

 

 ――いよいよ戦局は大詰めを迎えようとしている。わたしたちフェノバールにとってはすでに苦しい戦いとなっており、血路を開かないといけない。

 

 ことの行く末は、誰にも分からない。決まっていることなど、何もない。だから、この不利となった状況でも、挫けずに前を向くことが出来る。

 

 

 

 血腥い風を招く死神を、追い払うことが叶えばよいが……。

 

 

 

***

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。