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城中を駆け回り、詳しい戦況を知らない者に、何度も話のために足止めを食らって、わたしはようやく、城の最上部の玉座の間まで到達した。
衛兵に挨拶し、大きい二枚扉を開け、緊張感と共に、中に入る。
「陛下!」、とわたしは、広くて長い玉座の間の向こうの壁まで届くよう、声高に呼びかけた。
玉座の間は、広いアーチ窓が連続していて、陽光が差し込んで明るい。
真紅のカーペットが、扉のあるところより、階段を経て、玉座へと敷かれている。カーペットの両側には、護衛の騎士が威儀を正して並んでいる。
玉座には、王の子息が、王の代わりに座っており、まだ幼く、言葉さえ解さない子息は、絢爛たるドレスを纏う王妃と、乳母に囲まれて、子息にはあまりにも大きすぎるその玉座で、無邪気に戯れていた。
子息はあくまで、天真爛漫に過ごしているが、他方、彼の面倒を見る大人の女性たちは、柔らかい微笑みに、微かに憂色が見え、影を差していた。
カーペットと同じ真紅のマントを羽織る王はというと、あるアーチ窓のそばで、外に目を遣って、腰の後ろで手を組んで、何か物思いに沈んでいるようだった。
王はわたしの来訪に気付くと、姿勢を変えず、「待っていた」と言った。
わたしは恭しく答えると、そのそばまで行き、跪いた。
「きっと」、と王が言う。「ブレイズが貴君を遣わしたのだろう」
「仰せの通りです」
「戦況は芳しくないようだな。伝令の者がすでにことのあらましを知らせている」
「……敵方の未知の兵器が出現したことにより」、とわたしは、おずおずと説明を始めた。「それまでの有利だった形勢が一気に逆転。城郭が打ち破られ、『光』の突入を許し、戦いは民を巻き込んだものとなりました」
「やれやれ」、と王は苦笑を零す「情けないことだ」
「わたしの力が及ばないばかりに……」
「戦争は個人がするものではない。貴君が気に病む必要はない」
微かに、またあの新兵器の音が、遠くの方に聞こえる気がする。ドンという音で、金属の玉が飛び、高熱の爆風を巻き起こす。
「ブレイズは何と貴君に言ってここへ寄越したのだ」
「この戦況を鑑み、今後の命をくだされたいと」
「彼奴は、いやしくもフェノバール兵団の上官ではないか。まして現場にいて戦ってもいる。戦場に赴かず、戦況を熟知しないわたしなどの判断を仰いでどうするというのか」
「……」
わたしは返事に窮し、口を噤んだ。
「わたしがじきじきに出るのがよさそうだ」
「……?」
わたしは耳を疑ったが、王は窓より離れ、王妃の方へと向かった。わたしは王を目で追った。
「あなた」、と王妃が心配そうに、王に呼びかける。「戦場へおいでになるのですか」
王と王妃の話は、距離があってやや聞き取りにくい。
子息は依然として無邪気にはしゃいでおり、近付いてきた王の腕を掴んで遊んでいる。
「あぁ」、と王。「民が大勢犠牲になったに違いない。どの道逃げ場などないのだ。それに、わたしは元々騎士だったのだ。戦うことに対して、引け目はない」
王は武具を用意するよう、王妃に言い下した。
「分かりました」、と王妃が青褪めて答える。
王自身が戦う。ブレイズとかつて同輩だった王が。そう思うと、わたしは、身が希望と不安の両方で引き締まり、また慄いた。
――いよいよ戦局は大詰めを迎えようとしている。わたしたちフェノバールにとってはすでに苦しい戦いとなっており、血路を開かないといけない。
ことの行く末は、誰にも分からない。決まっていることなど、何もない。だから、この不利となった状況でも、挫けずに前を向くことが出来る。
血腥い風を招く死神を、追い払うことが叶えばよいが……。
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