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フェノバール王、フリードリヒは、防具を身に付け、すっかり戦士の装いとなった。ピカピカのその防具は悪目立ちしそうだが、戦場では敵味方が入り乱れるので、一目で分かるというのは利点であった。
フリードリヒは、少し同行するよう、わたしに求めた。わたしは、しがない一兵卒に過ぎない自身などに、王が一体何の用があるのかと、いぶかしく思ったが、従った。
フリードリヒは、参戦する前に、彼の父であり、先代の王である男を訪れた。前王は、城中の一室に、母である先代の王妃と共に過ごしているのだった。
前王と前王妃は、玉座の間ほどではないが、天蓋付きのベッドがあったり、毛羽立った布地のソファが置かれたりしている、豪奢に設えられた部屋にいた。
前王は、ソファに座って腕組みして、フリードリヒの話を深刻に聞いた。前王妃は、前王の向かい側のソファに座り、フリードリヒとわたしは、低く跪いて恭順に振舞った。
敵の侵攻と、その形勢について、前王は頭を抱えたが、常に覚悟していたことだと言った。
「わたしも」、と前王。「『光』の軍勢とは何度も渡り合った。フリードリヒ、お前も知っているはずだ」
「はい、父上」、とフリードリヒ。「『光』と戦うため、父上と共に行軍させていただいたことが幾度とございます」
「あなたがみずから戦場へと赴くつもり?」、と前王妃が心配そうに尋ねる。
「民が犠牲となっております。騎士たち、兵士たちの不手際です。そうなってしまったことの責任は、この町の運営の主権と、兵団の統帥権を有するわたくしめにあるかと」
「お前はだが、独裁をしていたわけではないだろう。あまり一人で背負い込もうとするものではない」
「そうよ」、と前王妃。「あなたはまだ若いし、兵団には何人も友人がいるでしょう。彼らを頼り、彼らと協力しなさい」
「はい、母上」
王たちの会話を傍聴していて、わたしは、自分がとても場違いという気がした。わたしはただ、王の用命で随伴してきただけであり、前王たちに謁見する理由は特になかった。
「騎士として死に場所を求めるその気持ちは分かるつもりよ」、と前王妃。「だけどね、このフェノバールの存続は、あなた、そして騎士たち、兵士たちにかかってる。その使命をしっかり認識してちょうだい」
「分かりました、母上」
――王たちの会話は終わり、王とわたしは一礼して部屋を後にした。
「さて」、と王が言う。「戦場へ向かう」
「はい!」、とわたしは敬礼する。
城中を歩きながら、わたしは、自分の知り得る限りの情報を、王に伝えた。王は、やはり頭の回転が速く、敏活で、わたしの話を即座に飲み込んだ。
「わたしは」、と王。「ブレイズと親しくしていたものでね」
「存じ上げてます。本人に時々話を聞きました」
「親しくしている相手のことはたくさん把握されるものだ。貴君のことは、ずいぶん前から何となく知っていた。お互いに、直接接したことはなかったが」
「王に覚えていただけるなど、恐悦至極に存じます」
「名は何という?」
「フリッツと申します」
「フリッツ。そうか」
王が立ち止まり、わたしも彼に合わせて立ち止まった。王は神妙な面持ちだ。
「では、フリッツ」、と王は、やけに改まった様子で呼びかける。「貴君に、頼みたいことがある」
「頼みたいこと……?」
城の中の、わたしと王のいる廊下は、とても静かだった。城中にいる者たちは、激しい攻防を交わす外の要請を受け、文官もメイドも、どんどん支援のために自身の仕事をなげうって参戦した。
わたしたちの沈黙、そして、微かに聞こえる戦場の音、声……。
王は、一体何を言い付けるというのだろうか。
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