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「分かった」、と番兵が固唾を飲み込み、納得する。「お前が言付かったという王命を、信じよう」
わたしは疑いを解いてくれたことに謝意を示し、彼に王命の内容を説明した。気重だったが、押し通すほかに手はなかった。
「話には聞いていたが」、と番兵は顎に手をやり、神妙な面持ちで言う。「我が方の崩れようは相当のもののようだな」
「とにかく」、とわたし。「生存者だけでも生き延びて、この町を脱け出し、どこかでフェノバールの活路を紡ぐようにと、王はお望みです」
わたしたちが話している間にも、戦火に荒廃した城下町の模様が、塔の窓に見えたし、誰かの悲鳴や、喚声や、爆音が聞こえた。
「火急の知らせというのは、このことか」
「間違いなく」
「だが、このフェノバールは平野の町。『光』の連中に少しでもオツムがあるのなら、すでに奴ら、包囲網を敷いているはずだ」
「ぼくたちは、袋の鼠ということですか」
「そういうことになる。だが、お前が話したように、王がじきじきに出陣なさったというなら、敵の注意は逸れるだろう」
話を聞き、わたしは、王のまとっていたピカピカの防具と、純白の被毛の馬とを思い起こした。確かに、どちらも目に付きやすく、注意を惹きやすい外観だ。
番兵は、しばらく目を瞑って俯き気味に考え込む様子を見せると、目を開いて顔を上げ、わたしに、手近にいう兵をまとめて、現在位置に最も近い城門付近の敵兵を撃ち払うように命じた。
「おれは城中を駆け回ってなるたけ人数を集める。兵士も、避難民も、メイドも、侍従も、料理人も、なるたけ全員だ」
「了解しました」、とわたしはピシッと敬礼して返す。
番兵はくるりと振り返り、今にも走り出そうという恰好になる。
「もし」、と彼は首だけで振り返り、言う。「お前の感覚で、脱出出来そうだと判断できるタイミングがあれば、おれたちのことなど構わず、さっさと脱出してしまえ。いいな?」
「……ッ!」
敬礼したまま、わたしは狼狽える。
「――いいな!?」
番兵に物凄い目付きで睨まれ、わたしは自身の躊躇を強いて押し殺し、「了解しました」、と重ねて返した。
「まぁ」、と彼は表情を和らげ、続ける。「すぐに戻ってくるつもりでいる。それまでの間、耐えていてくれればいい。人数さえ集まれば、何とかなるはずさ」
そう言って、番兵は走り去り、わたしはというと、身近にいる味方を搔き集め、脱出の経路を確保しないといけない。すでに自陣は統制が乱れている。メイドだろうが、料理人だろうが、猫の手を借りたい思いで、支援して貰うことになるだろう。
暫定の主導者はわたしだ。わたしの判断次第で、フェノバールの行く末が変わるし、何より、わたし自身の生の展望が決まる。
わたしは、胸がドキドキと高鳴り、呼吸が荒く、緊張と不安で、苦しかった。
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