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「待てよ。何か妙だな」
ブルーノが、顎に手をやって頭上に疑問符を浮かべる。
「妙とは?」、と受付のおやじ。「何か聞きたいことがあれば、言ってくれ。アンタに代わって依頼主に直接聞きに行くから」
「いや、そこそこおいしい仕事があるものだなって、不思議に思いまして」
ブルーノは顎にやっている手を下ろし、腕組みする。
「おれたち、今まで寄った村で必ず仕事を探して、だけど、自分が望む仕事なんてすっかりなくて、お呼びじゃないっていうことでしょうね。だから結局、絶対に進んでやらないような仕事をやってばっかりだったんです。それも低い報酬で。思い出すだけで嫌になりますね」
「その苦労は察するに余りあるという感じだな」
眉をひそめた同情するような面持ちで、おやじは、葉巻の灰を陶器の灰皿へと指で叩いて落とすと、「タイミングがよかったんだろうよ」、と言って、再び葉巻を咥える。
「だけど、確定じゃないからな。シュトラウス様にしたって、いい使用人と悪い使用人を区別する権利がある。誰だっていいわけじゃない。まぁ、アンタらが一番早くに応募したから、もしお互いに不都合がなければ、話は早いだろうがな。うまく運ぶことを祈るよ」
「ご厚意、ありがとうございます」
ブルーノとおやじは別れの挨拶を交わし、ぼくはブルーノに連れられる格好で、ギルドハウスを出、村をぶらぶら歩き始めた。ぼくは、心にまだ、すっきりしないものを抱えていた。
もし、ミアが、ぼくが一文無しだと知れば、軽蔑して、もう会ってくれなくなったりしないだろうか。ぼくが一着の服さえ買えないすかんぴんだと知れば、用がないと相手にしてくれなくなるだろうか。
「どうなるかな」
「……」
ブルーノの言葉に、ぼくは反応しなかった。
「おい、フリッツ?」
名を呼ばれることで、ようやく我に返る。
「お前、やっぱり変だぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「ないよ。熱なんてない。ただ……」
「ただ?」
ブルーノはまじまじとぼくを見ている。ぼくは上目遣いで、気後れして、彼と中々目を合わせられない。ぼくより一回りくらい年齢が上のブルーノの目には、心配の色が見えた。ぼくの様子がおかしいと、気を揉んでくれているらしい。そう察知すると、申し訳ない気持ちになってくる。
「あのさ、ブルーノ。ぼく」
ぼくは、吐露してしまおうと思った。吐露してしまって構わないと思った。
「仕事、がんばるよ」
「何だよ。急に。脈絡がないな」
「お金を稼ごうと思うんだ。たくさんじゃなくてもいい。せめて服が一着買えるくらいは、稼ぎたい。今までブルーノに付いていくだけだったけど、自分でもちゃんと成果を上げて、それに相応しい報いをもらいたい」
「何だ、服が欲しかっただけか」
「別に、そういうわけじゃないけど」
「いずれにせよ。感心なこった。少し大人になったな。だがな、フリッツ、ギルドハウスで受けようって決めたあの仕事だけどな、富豪の娘の護送とはいうが、その実は単なる用心棒だ。城下町への道順をじっくり練るのも大事だが、あるいは何者かとの戦闘があるかも知れないからな。これから武具屋へ向かうぞ。装備を調達するんだ」
「戦うの?」
「可能性の話だよ。そりゃ血が流れないことが第一だけど、外は物騒だからな。何が現れるか分からん。警戒するに越したことはない」
何か色々と、ぼくの周りを廻っていた。ミアに、戦いに、仕事。今日のご飯に、今から買いに行くという武具と防具。
お金を稼ぐことが先決だと思った。そして、無事お金を稼ぐことが出来たら、その時は、ミアの店で、服を買おうと、そう心に決めたのだった。