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フェノバールの延命を期し、『光』の包囲網に脱出経路を開くため、わたしは出来得る限りの速度を意識して駆けずり回り、会う者ひとりひとりに事情を説いて回った。
わたしの身分が位階のない騎士未満のただの小姓に過ぎないので、誰も彼も、初めはわたしの言うことを信用せず、わたしはほとんど狼少年といった具合だったが、埒が明かないと、王の宝冠を見せつけることで、思うようにことが運べるようになった。宝冠が王のもとにないということと、わたしの説く王がじきじきに出陣したという説明とは、完璧に辻褄が合うのだった。
ぞろぞろと避難民もメイドも兵士も騎士も一堂に会し、人数が増えていく。中には王妃と、王子を抱いた乳母の姿もあり、決して迂闊には動けないという緊迫感が、わたしを含め、兵士たち、騎士たちに走った。
集合する城門は特に決まっていなかったので、王命を授かったわたしの独断で選択し、顔を合わせた者には、その門へ向かうようにと伝えた。
一所に人数が集まるにつれ、徐々に行動の機運が高まってくるのだが、肝心の指導者がいないので、いつまでもぐずぐずと、遅疑逡巡しているばかりだった。王は勿論、ブレイズも前線に出て戦っている最中であり、城内の警護に務めていた騎士たちは、こういう状況での経験があまりないということで、積極的に前に立とうとせず、尻込みし、その名声をみずから傷付けた。
皆、命と生存を尊び、生き抜こうという意志においては固く合致しているのだが、戦闘を合理的にするために序列を組もうとすると、てんでんばらばらになってしまうのだった。
わたしは、いてもたってもいられず、王妃のもとへと駆け寄り、どうすればいいかと指示を仰いだが、王妃は青ざめた顔で首を左右に振るだけだった。
「わたくしは」、と王妃が、今はぐっすりと寝ている、まだ歩くことさえ覚束ない幼齢の王子の髪を――まるで、おのれの不安を鎮めようとするかのように――撫でて言う。「確かにこの場にあって、王の妻として、勇ましく陣頭指揮を執らねばならない立場の人間なのかも知れません。ですが――」
王妃は、手を王子の額より離し、息苦しいとでもいうように、うなじの辺にやる。
「――わたくしなどには、これだけの人数さえ、俯瞰することが出来ないのです」
わたしは、すぐには返事が出来ず、重々しく口を噤み、バツの悪い気分に苛まれた。
王妃は、ここにいる全員に対し、命令を下せる立場にある。たとえば、わたしが指揮を執ろうとしても、小姓に過ぎないわたしに、唯々諾々と従ってくれる者は極少だ。
個人がきちんと把握され、決まった立場と役割をもって組み込まれ、訓練されているなら、連携や呼応に困難はさほどなかろう。
だが、わたしのいるこの集団は、一枚岩ではなく、職業も年齢も性別も種々様々で、戦闘の訓練をされていない者が多数含まれているのだ。
この難局を乗り切るためにまず講ずべきは、応急的組織運営の方途のようだった。
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