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わたしはフラフラとした足取りで片隅へと行き、熟考する格好を整えた。いぶかるように、王妃を含め、何名かがわたしの行動を見ている気がした。
激しく予断を許さない戦中だから、リラックスなどまず叶わないということは、わたしは重々分かっているつもりだったが、その点を考慮しても、悩ましい懸案が多く、イライラが募った。
この非戦闘員を含む集団の足並みをどのようにして揃えるか。指揮官、参謀のいない中での戦術構築。きっとあるだろうと思われる敵勢力の新兵器の攻略法……。
どれも極めて難題であり、わたしなどに満足の行く解決は望めなかった。
最早いっそのこと、ひとりで勝手に逃げ出してしまいたい気持ちに駆られたが、敵に包囲されているこの状況で、うまく行く可能性は低いし、何より、ひとりで逃げるというのは、独善的で倫理に欠ける、組織の構成員として恥ずべき振る舞いなのだった。
合間を置いて、新たに避難民が城門を潜って入城してくるのを、わたしはハラハラとして確かめる。中には、時機が悪く、城門の近くで敵兵とうっかり遭遇し、無残に殺されてしまう者が何人かいるのだった。
――わたしにおいて最大の懸案は、ミアの安否だった。
避難民の数はどんどん増えていくけど、待てど暮らせど、ミアの姿は見えない。
この戦況においては、亡くなっていても不思議はないのだが、ミアが亡くなったと考えると、気が遠くなり、生きた心地がしないのだった。
「おい!」、という荒っぽい声がかかり、わたしは肩をドンと強く叩かれる。
わたしは我に返り、振り向くと、見覚えのある男がわたしの顔を、不安そうに覗き込んでいるのが目にされた。さっき塔で話した番兵だった。
「あなたは……」、と言うわたしの声は、か細かった。
「何、ボーッとしてるんだよ。脱出経路は確保できたのか?」
「脱出経路……」
そう呟いて、逃げ道の確保が、わたしの役割でもない、という気がしていた。いくぶんか、
「しっかりしてくれよ」、と番兵はわたしを責める。「役割をちゃんと分担したじゃないか。おれは城中の人手を集めて、お前は手近の門の敵を片付けて脱出経路を確保するって」
「ごめんなさい。何も進行させることができませんでした。わたしが至らないばっかりに……」
「もし可能なら、お前が主導して先に逃げてしまってもよかったんだ。時間が過ぎれば過ぎるほど、劣勢にあるおれたちの動きは、制限が加わり、不自由になる」
わたしは力が抜け、茫然自失といった状態だった。
兵は神速を尊ぶという。戦場では何事も素早く処理すべきだという古諺だ。
わたしは有効策を立てることが出来ず、無駄に時間を食ってしまった。おのれの無能さを、思い知り、気を落とした。
「まだ反省する時間じゃない」
番兵はそう言い、わたしの胸を軽く殴る。
わたしはよろめき、軽く咳き込んだ。
「挽回の余地はきっと残ってるはずだ」
彼は、わたしを鼓舞してくれているらしい。
「三人揃えば何とやらだが、おれとお前じゃ、二人っきりか。まぁ、いいさ」
番兵は苦笑する。
「考える頭がひとつ増えりゃ、何か新たに閃くかも知れない」
気落ちしている場合などでは、なかった。
ミアのことはひとまず忘れて、目の前のことに集中しようと、わたしは腹を固めた。
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