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塔の見張りの報告が吟味され、城門の開放が出来るという判断が下され、城門が開き、跳ね橋が下りる。
跳ね橋は、巻き上げ機の鎖による引き上げと伸長を通じて上下するが、その際に時間がかかり、すでに逃げるスタンバイを完了している人々はじれったいに思いに駆られるのだった。
馬車に乗れない人々が少なからずいるが、決まって年齢の若い男子たちだった。
女性の場合、馬車へ乗ることを優先されたが、やはり高齢者と女児が最優先であり、若者の中には馬車に乗れない者がいたが、そういう者は、馬に、騎士と同乗した。
馭者たちを乗せ、加えて大勢のひとの乗り込む馬車を曳かねばならない馬には、このたびの脱出作戦は、拷問に近い苦労が予感されたが、調教された優れた体格のよい軍馬たちは、きっと不足のない走りを見せてくれるだろう。
跳ね橋の直前にいるフォンスが、槍を持ち上げて注意を促し、首だけでわたしたちのいる後ろを振り返る。
「町を外側の城壁、すなわち城郭まで一直線に進みます。王が囮になってくださって敵影が疎らになったとはいえ、完全にいなくなったわけではありません。町民の皆さまは、隊列において中央に位置しており、その周りは騎士たちが囲っていますが、最悪の場合、手持ちの武器にて応戦願います」
――非戦闘員である町民たちは、いざという時のために、小型の武器を配られ、ポケットなどに忍ばせているのだった。
「では、まいります」
跳ね橋が下り、まずはフォンスが行き、その後、何名かの騎士が、その後、町民を乗せた馬車が、続いた。
彼らの後ろ姿を見送りつつ、わたしは後方を振り返り、馬なしの歩兵のグループを見た。彼らは全員町民の男子と兵士たちであり、彼らはわたしたち馬で行くグループとは別個で動くのだった。
「――何、ボーッとしてるんだ」
と、目が合ったひとりの兵士に言われた。
わたしは、これから切り抜けようとする修羅場を想像していたのだった。
「気を付けてください」、とわたしは言った。「生き延びて、合流しましょう」
「当たり前さ。こっちの心配はしなくていいから、自分と、町民たちのことだけ考えて動け。おれたちはただの戦闘員でしかないが、町民は、商売とか、手工とか、暮らしを成立させる技術や知識を持ってる。町が栄え、文化的に発展するには、そういったひとたちが不可欠なんだ」
「――そうですね」、とわたしは厳粛に答えた。「気を引き締めて、しんがりを務めます」
兵士は笑顔で敬礼して見せ、わたしは頭を下げ、馬を蹴って走り出させ、何名かの騎士たちと共に、跳ね橋を渡った。
先に出た者たちはきちんと隊列を組み、町民をのせた馬車を守るように固定したところに位置し、ずいぶん速度が高く、わたしは馬体を脚で強く締め付け、手綱をグイと引っ張らなければいけなかった。一気に加速して、目をまともに開けられないほど、向かい風の勢いが凄まじかった。
――走りながら、町民が遅れて避難してくるところが見えた。だが、すでに脱出を始めた以上、とまるわけには行かず、見捨てる形で過ぎ去らないといけないのが、かなり精神的に苦しいことだった。
彼らは味方であるわたしたちを見つけ、顔をパッと輝かし、今にも助けを乞おうとするのだが、彼らの呼びかけを待たずに、わたしたちは行ってしまうのだ。
もし、その中にミアがいるかと思うと――わたしは頭が痛くなってくるようだった。
後から来る歩兵のグループに合流すれば、遅れてきた町民も、あるいは守られ、助かるかも知れない。
わたしは、心よりそう願うばかりだった。
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