さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第275話

***

 

 

 

 フェノバールの城下町を、隊列を組んで馬で駆け抜けながら、わたしは、向かい風にしょぼつく目で、敵の攻撃に晒される町の様相を否応なく直視させられた。

 

 建物は倒壊するなどし、瓦礫やゴミがその辺に散らばり、その間に死体と思しきひとの体が横たわっていることがあった。砂埃が舞い、火の点いた木材が転がっていた。

 

 どうしても、わたしの目は、彼女の――ミアの姿を切実に探し求めた。

 

 ミアはいったいどこにいるのだろう。無事なのだろうか。無事でなければ、どうなっているのだろうか。

 

 こういう苦境に立たされると、どうしてこうなってしまったのかという悔やみの感情に支配されがちだが、わたしの場合も、同じだった。

 

 わたしは、過去を振り返り、ブルーノとの死別に際し、悲嘆に暮れ、年長者の薬師、リフレとミアの三人での旅の末、自身の覚悟より、この町で騎士を志し、今では、騎士の側仕えとして、決して順風満帆ではなかったけれど、段階を経て、地位を上げていった。

 

 強い騎士に守られた平和で歴史のあるこの城下町で、幼いわたしは成長し、背が大人と同じくらいまで伸び、仕事をこなして生活し、お酒を飲めるようになり、よく酔っぱらってわたしを呆れさせたブルーノのように酩酊した。ブルーノは酔うと荒っぽい振る舞いをするようになったものだが、わたしは違って、気性は変化せず、ただ眠たくなり、ボーッとした意識で、過去を振り返るのだった。母との日々、ブルーノとの、コンラートさんとの日々。リーザ嬢の、執事のコンラートの面影。リフレが連れていた牛車の牛の、よく肥えて歩くのが遅い、真っ黒の被毛の体。

 

 そして決まって、わたしは回想のたびに、ふるさとを持たないに等しいおのれの境遇を不憫に感じてくるのだった。

 

 ――街路に敵影はほとんどなく、仮にあっても、疎らで、わたしたちとの人数の違いより、戦闘を断念して逃げ隠れるばかりだった。

 

 逃げる道中、目に付くものが道端に設置されており、それは巨大で、兵器のようだった。恐らく、あの激しく爆発する金属の玉が射出されるだろう兵器だと推定された。

 

 それは、木製の台車に黒鉄の筒が載ったものだった。

 

 兵器はわたしのみならず、他の騎士たち、町民たちの関心を惹いたようで、彼らは見るともなしに兵器の方に目を投げたが、逃げる速度を落としてまで確かめるほどのものではなかった。というよりは、むしろ、今は逃げることが先決で、兵器の詳細はそうだし、もっと言えば、遅れて逃げてくる町民さえ、合流せずに見捨てなければいけなかったのである。

 

 わたしたちの後方には、距離を置いて追ってくる敵影がチラホラ見えており、あるいは後に大勢集まって、わたしたちを追撃し、脅かすことになるおそれがあるのだった。

 

 不謹慎は承知だが、見捨てざるを得ない町民の中に、ミアがいなかったことは、幸いかも知れない。もし彼女の姿を目にしたら、わたしは、隊列を独断で抜けて助けに向かっただろう。

 

 しかし、反対に、むしろ現れてくれるのが、わたしにとって、幸いなのかも知れない。

 

 彼女の存否を知らずに逃げるのは、わたしにとっては、一種の裏切り行為だし、何より心配だし、出来れば確かめに行きたかった。

 

 そういう思いで、激しい向かい風の中、後ろを振り返った――追ってくる敵の姿が目に入った。今Uターンして彼らに真っ向勝負を挑むのは、無謀に違いなかった。わたしは怪我人だし、しんがりとして、一翼を担っていた。

 

 またしても、家族を失うのかと思うと、わたしは乾いた笑いがこぼれてくるのだった。

 

 ミアに加えて、ブレイズまで。彼らがいなくなれば、わたしはひとりぼっちだ――また、ひとりぼっちだ。

 

 彼らがいないという状況で、わたしたちが逃げ延び、向かった先で新たに町おこしを企て、成就させたとして、その未来に、わたしの幸せが、果たしてあるのだろうか――。

 

 

 

***

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