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川がこの村を通っている。
ミアの服屋を始めとした、住居と商店と工場を兼ねた建物の並ぶ通りが中心を通り、その通りは、やはり露店が出るなどして活気付いている。
その周辺にはこぢんまりとした住まいが点在し、穏やかな暮らしが営まれている。
自主独立を謳歌している政治的に優れた村だが、折に触れて外部との通商があり、内外を行き来する商人、郵便配達人、要人を護送する兵士などが、折に触れて目にされる。ぼくらのように旅人をしていて、宿を求めてここに辿り着く者もいる。
川の話だ。
それほど幅広くない川には一本の橋が架かっている。木製で、ずらりと並ぶ橋台に支えられた、高欄のあるしっかりした造りの橋だ。
その橋を渡ると、開けた場所に出るが、なだらかな斜面となって、彼方へと緩やかに上がっている。辺り一面、麦畑が広がっており、畑中を豊かに実った麦が埋め尽くし、その風景は圧巻だ。風に吹かれて、麦の一本一本がひらひらと揺れている。
何軒かの住まいが見えるが、その様は邸宅というべきもので、ちょっとした威光を放っている。
「立派なお家だね」、とぼく。
「この麦で稼いでるんじゃないか」とブルーノ。「いわば麦御殿だな」
「シュトラウスさんのお家は、どれかな」
「さぁな。どんなところに住んでるかって、ちょっと見物しに来ただけだからな。あんまりうろちょろすると、怪しまれる。行くぞ」
聞けば、麦はあるお酒の原料だそうだ。昨夜ブルーノが鯨飲したお酒も、あるいは麦から出来たものだったかも知れない。
橋を渡って村の中心へ戻ると、ぼくらは目指していた武具屋を訪ねた。いらっしゃい、と、髪のない頭をした色黒の屈強そうな大男が歓迎する。もしかすると武器屋に加えて、鍛冶屋もやっているのかも知れない。
鎧に、兜に、レギンス。すね当てに、腰巻。見るだけで体が重くなるが、あらゆる攻撃の害軽減してくれる。一式揃えようと思うとずいぶんかかりそうだ。
武器の方はといえば、剣に、槍に、斧。弓矢に、矛。
仕事を頑張ってお金を稼ごうと張り切って来店してはみたものの、剣の切っ先や、その滑らかでツヤツヤ光る剣身をまじまじと見、装着されていない売り物の防具に兵士の姿を連想すると、何だかおっかなくなって、物怖じしてしまうのだった。
「お前の今持ってる武器って」、とブルーノ。「ナイフだけだったよな。おれがくれてやった」
「ナイフ? 確かにもらったし、持ってるけど、武器と思ったことは一度もないよ。あくまで道具であって、枝を切ったり、服のほつれを直すために使うのであって、戦いに使おうなんて少しも思ったことない」
「じゃあ新しく買わないとだな。何を買う?」
「何をって、急に言われても、困るな」
「お前はまだちっちゃいからな。とりあえず、盾と小剣だな」
そういって、手頃な商品を選ぼうとする。
ぼくはにわかにそわそわした気分になって、思わず「待って」、と、ブルーノの服の裾を掴んで制止した。
「どうした?」
「戦うの? ぼく、戦わなきゃいけないの?」
「言ったろ。可能性の話だって。こっちからしかけることはまずないが、誰かがおれたちを襲ってこないとは言い切れない。そうなった時には戦わないと、おれたちがやられるし、護送する要人を守れない」
そこまで言うと、ブルーノはぼくと目線が水平になるようにかがみ、ぼくの両肩をがっちり掴んでささやくように言った。
「お金を稼ぐんだろう?」
ぼくは頷く。
「そのためには、仕事をこなさいといけないだろう?」
またぼくは頷く。
「仕事をこなすには、意気や、根性や、覚悟が必要なんだ。後、道具。今揃えようとしてるのは、その道具なんだよ」
ぼくはまた頷いたが、今度はその後、しゅんとうなだれた。
「嫌なら無理強いはしない。今度もまたおれに付いておれの陰に隠れていたって構わない。だが、お前が自分で頑張るって言ったんだろう」
「……」
確かにそうだ。
ぼくは決心した。お金を稼ぐ。そのために仕事でみずから成果を上げる、と。
傷つけられるのは嫌だし、かといって傷つけるのだって、同じくらい嫌だ。
だけど、そうも言っていられない峻厳なところに、ぼくは突っ込んで行こうとしているのだ。
逃げていちゃいけない。前へ進み出さないと、何も変化しない。
みずからを鼓舞したが、胸が苦しかった。葛藤があった。
自分との戦いさえ満足に戦えない者が、他人とまともに戦えるのだろうか。
武器屋の得物の数々は、妖しい光を放って、ぼくを惑乱させている。