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『光』の創始者、ヨハネスが普段いるのは、大聖堂だった。
高齢になって、頭髪が薄くなったり、腰が曲がったり、体重が落ちたりして、数々の老化現象をその身に被ったヨハネスは、大聖堂を出て旅することは稀となり、祝祭日などの特定の機会を除けば、彼は基本的に大聖堂の中で過ごす。移動は徒歩ではなく、助祭が動かしてくれる車いすでするようになった。
年を取り、病弱になった彼は、一日の内、睡眠の時間を多く、また頻繁に取り、朝遅くに起きだして、夜早くに就寝する。聖職者の仲間や騎士とよく接していた往時とは変わり、彼は、薬や健康法を伝授する医者や、介護役の助祭などと打ち解けてしゃべるようになった。もちろん、エルも、彼が心を許すひとりである。
だが、まだヨハネスは、耄碌してはおらず、頭脳は明晰であり、鋭い感性を保っており、司教の座を退いて以後も、なお重役として、『光』という組織の実権を握っている。
”レメロン大聖堂”は、大国、バルビタールより少し離れたところにある。馬を一昼夜走らせて着くくらいの距離だ。バルビタールを貫通して流れる川の支流沿いの、羊が放し飼いされている広い草原が大半を占める土地にある。こぢんまりとした町があり、大聖堂は、その近傍の森の奥に、ひっそりと、だが、堂々とたっている。
大聖堂においては、中央にドームの屋根の建物があり、その四隅に尖った屋根の塔を配し、塔と塔の間は、壁となっている。
高い技術を示す幾何学模様の彫刻が随所に施され、壁に並ぶ、天使の輪を頭上に浮かべた天使の像は、『光』の象徴として、ひときわ強い存在感を放っているが、大聖堂の外観は、まるで城塞のようで、美しさ、厳かさがあると同時に、堅牢さを思わせる風格があった。
ドームの屋根の建物の四方の広場がそれぞれ趣きの異なる中庭となっており、エルとクロロは、その内のひとつにおいて話しているのだった。
「クロロ」、とエルは隣の彼に呼びかける。
クロロは、エルの方に顔を向ける。
「騎士たちを部屋に召集してくれ。円卓の部屋だ」
「了解しました」
「さっき相談されたことを仲間たちと議論したい。廃墟の町に、復興と統治のため、誰を派遣するか、どういう風に復興を進めるのか、物資はどうするのかなど、話し合うのだ」
「はい」
クロロは一礼し、下された用命のため、エルのもとを去っていった。
騎士は、弟のように近しい小姓の後ろ姿をずっと見送っていた。
賊だった頃の仲間は――エルは、しみじみ思った――戦場であえなく死ぬなり、おれの考えが気に食わなくなって袂を分かつなりして、どんどんいなくなっていった。
今残っているのは、クロロだけだ。
クロロは、エルにとって、血の繋がっていない、彼が幼い頃にいっしょになった、ただの付き添いであり、道連れであり、どれだけ親しかろうと、詰まる所、赤の他人に過ぎない。エルが賊をやめ、騎士になったことに、クロロは関与しなかった。
クロロは騎士となったエルを追ってその小姓となったが、エルは、クロロが自身を必要としていることを察知していた。自分がいなくては、クロロはひとりで生きていけないと、何とはなしに、推知された。
だが、ひょっとすると、自分も、クロロなしでは生きていけないのかも知れない――とエルはふと、思った。
意地悪だった母親、優しかった大工の親方と仲間達、賊だった頃のならず者ばかりの連れ合い。
エルは記憶の中に、彼らを思い返し、あるいは嫌悪感と共に、あるいは慕情と共に、その容姿、その声、話し方を顧み、そして、彼らの全てが、今の生活よりごっそり抜け落ちていることにゾッとし、かろうじて残っているクロロとの紐帯の貴さを改めて思い知り、温かい気持ちに、ホッとするのだった。
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