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「確かにおれは」、とエルが言う。「昔は卑しい身空だったが、今は違う。変わったんだ」
会議の場はしんと静まり返っていた。まんまるの円卓の回りに放射状に並ぶ椅子のようには、会議の出席者たちの相関関係は整然としていないようだった。
「あまり言いたくはないが、おれはヨハネス導師の忠実なる下僕であり、そして今この場にいるおれは、導師様の代理なのだ。その意味を貴君らは、よくよく考慮すべきだと思うが」
チッ、という舌打ちの音が微かに聞こえた。エルの言ったことが気に食わないといった感じだ。
「最早この乱世にあって、家柄や出自は大した問題ではない。言ってしまえばお飾りだ。意志と実力こそが必要とされる全てであり、他はそれらに対し、優先されない。戦乱を鎮めるのは毛並みのよさではなく、力であり、勝利を決定する際に、血筋うんぬんはまったくもって無関係だ」
エルの口から話されることに、納得して頷く者もいたが、虫の居所でも悪いように、ムスッとしている者もいた。どっちつかずの者もいた。
「この大聖堂での執務を離れ、未踏のよその土地へ――ましてや廃墟などへの転任を言い渡されれば、左遷と受け取る者がいて、肯定的に聞かれないことは、承知している。わたしは独断で今回の決議を強行しようとは思わない。ゆえに、こうして集まって合議をしているのだ。問題とされることが、放っておいてもいい性質のことなら、わざわざ貴君らの時間を割いてもらってまで、会議をしようなどとは端から思わない」
スッとひとりの騎士が手を挙げる。
「申し訳ない。わたしがやります、という意味での挙手ではありません」
彼は手を下げ、続ける。
「わたしは、エル殿の意見には反対しません。むしろ賛成します。皆さんそれぞれご都合がおありでしょうが、どうかこの場での話し合いを不毛にせず、建設的に進められるように、心を開こうではありませんか」
彼の言葉で、ポツポツと緊張感が張り詰めていた円卓の空気が緩み始め、次々と、黙っているのをやめ、自論を述べる者が出始めた。中には、最後まで無言を貫き通す者がいたが、そういう者は、構わず放置された。
今ある仕事と、次の仕事。その仕事の重要性。騎士のキャリアアップとしての道程の考査。会議の出席者のそれぞれの現状が明確にされ、比較された。転任が多く、廃墟の復興などにすでに携わったことのある者がまず除外され、従って、あまり携わらないか、携わった経験が絶無の者が候補にあがった。
最終的に、ある若い騎士が選抜された。彼は『光』の騎士として戦地を転々とした挙句、大聖堂に召喚され、大聖堂での執務に就くようになった。してきたことの大半は、騎士としての戦闘であり、残りは、聖職者として戒律の勉強や、種々の冠婚葬祭の補助ばかりだった彼が、今回キャリアアップのため、選任されたのだった。
「祭司としては」、とエルの隣の助祭が手を挙げる。「わたしが参りましょう。ようやく意見が出、議論が活発化したものの、誰かが名乗り出なければ、この話し合いが不必要に長々と続きそうなのでね」
エルは助祭に許否を問われると、許可の返事をした。
こうして会議は、不和があり、一致団結して行われたものではなかったが、最終的に、複数の出席者の善意と好意のお陰で、会議の目的とされる決定事項の決定まで漕ぎ付け、晴れてお開きとなったのだった。
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