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火薬は、硫黄と硝石と木炭を混ぜて、作ることが出来る。
ある方面から、火薬の製法が伝わって来、レックスのもとまで波及することで、医療用の薬品しか知らなかった彼は、新種の薬品の存在を知り、蒙が啓かれることとなった。
彼は最初、伝え聞いた製法に従って調合し、乳鉢の中の黒い粒のにおいを嗅いでみた。しかし判別されたのは硫黄のにおいのみだった。
火打ち石をすって火花を飛ばしてみると、レックスはびっくり仰天だった。
火が起きると、見る見るうちに大きくて黄色いものになり、蝋燭の灯火などとは比べものにならないほどの勢いだった。
レックスは調合室の机上でその実験を行ったのだが、見下ろしている乳鉢から頭まで届くくらいの火勢に恐れをなし、思わず激しい動きで退いた。
硫黄のにおいが消え、かわりに何ともいえない異臭が立ち込め、レックスは思わず顔をしかめたが、火はやがて小さくなり、消えた。
レックスは少しして冷静になり、火薬というものの特性に目をみはり、関心を持った。
レックスは、『光』に薬剤官として重用され、最初は拉致された身で無気力で嫌々だったのが、その内、諦観の境地へと到り、自身の職歴に適合する薬剤官の仕事に、精を出すようになった。
勿論、レックスは、元々いた城下町の平和を脅かし、彼をかどわかした『光』の従者たちを好ましいと一度も思わなかったが、薬屋の時と変わらず薬草を調合するなど出来るのは、彼にとって唯一の救いだった。
レックスは火薬を、生活を便利にする道具として、利用した。暗い夕・夜などに明かりが欲しい時は、火薬をためられるランプを開発して、それに火を灯して使ったし、彼が管理する薬草園に、落ち葉や枯れ枝が溜まった時は、それらを焼却する火種として使った。
彼は火薬に関してはそういう利用の仕方で満足していたが、やがて火薬の存在が他者の関心を惹き、騎士・兵士などに詳細を問われることとなった。
レックスは半ば得々として火薬のすごさを語ったが、騎士は戦争に活用出来ないか考えた。
傷薬や強壮剤などといっしょに火薬を支給されるようになってからは、騎士・兵士は、敵地に放火するといった形で簡明に使ったが、火薬の存在が『光』全体に知られるようになると、あらゆる知識・知恵が総動員され、あれよあれよという間に火薬は、レックスを除く、自然科学に長けたインテリたちによって進化させられ、爆薬となり、新兵器の開発のカギとなった。
水車の動力で動く工作機械で、武器科に属する職人が鉄を削り、止まり穴のあいた太い棒を作ると、細い穴を貫通させ、爆薬入りの袋を繋げた紐をその穴に通した。紐が導火線として、着火されると、爆薬が爆発し、中に仕込んだ球が激しく飛んでいく。そういう仕組みの兵器が、製造された。
棒に仕込む玉は金属の塊であり、死ぬほど重く、それが命中すれば、ひとであれば、どれだけ頑丈な鎧を纏っていようと、即死であり、攻城戦であれば、どれだけ堅牢な壁であろうと、風穴をあけることが出来るのだった。
この兵器、『火砲』は戦争での戦術に新しい展開を持たせるものとして『光』において重要視され、外部に漏れないよう、守秘義務が課された。
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