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「我々はすでに広大なる領土を有している」
、と彼は言った。
「すなわち、我々は数多いる信徒たちの導き手であり、また守り手でもあるわけだ。その道義的責任は、まことに重大極まりないものである」
ある広く長い部屋の中。壁は置物が置けるようにくりぬかれており、聖像が、そのスペースにことごとく飾られている。部屋の大半は椅子の並びであり、最奥に講和などが行われる壇がある。
その壇に立っているよく目立つ赤い礼服に身を包んだ、二十代くらいの若い男が、今、この部屋に集まって椅子に座っている聖職者並びに、騎士たち・兵士たちに、一席打っているのだった。
彼の名はトーマスといい、ヨハネスの後継者で、『救いの光』の教皇であり、現最高位聖職者である。背はあまり高くなく、やや短いブロンドヘアーは癖毛であり、髪型を特徴的にしている。口は小さく、鼻は少し上を向いていて、綺麗に半円の弧を描く眉毛の下に、冷静さを伺わせる瞳が慎ましく光っている。
レメロン大聖堂において、会議が催されているようだった。会議とはいえ、その実はトーマスのスピーチであり、参加している聴衆は厳粛に耳を傾けている。咳払いなどの雑音さえ少しもせず、
エルも参加しており、彼は壇のすぐそばで、腰の後ろに手を組んで、休めの姿勢で、聴衆と対峙する格好だ。壇に対してエルの反対側には、車いすにのったヨハネスと、彼の介助役の助祭がいた。
「『光』の尊ぶべき教え・理念は」、とトーマスは続ける。「領土の拡大、及び信徒の増加によって進化したといえる。あらゆる祭事に必要とされる道具、知恵、作法は、より細密になり、要されるコストは高くなったといえ、『光』の威信を高いものにし、信徒たちの信仰心をきっと篤くしたに違いない」
黒い衣装ばかりが埋める部屋にあって、壇上のトーマスの赤い礼服は、やはりよく目に付き、身分の違いが明らかだった。
「であるからして」、と教皇は続ける。「我々は早急に、遠征軍を構成し、異教徒を改心あるいは排除していかねばならない。彼らの放置は、無秩序の放置に等しく、断じて許されないものである」
ヨハネスは、眠たそうな細い目で、ゆっくりと何度か頷き、エルは、眉間に皺を寄せて目を瞑り、俯き、何か思案しているようだった。
「この世は戦禍によって乱れており」、と教皇。「この乱れを鎮圧するには、宗教の力が必須である。『光』の理念は、この地上に絶対的平和を約束する。天上界をあまねく照らす美しい恵みの光を、より劣った他宗教、そして哀れで同情すべき異端者たちへと注ぎ、彼らの暗愚の闇を払ってやるのだ――!」
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