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遠征軍の派遣――『光』の宗教組織の基盤を強化し、異教徒を撃滅して勢力を広げ、今ある繁栄を更に高めるための、部隊の編制と出征が、教皇、トーマスにより、朗々と指示された。
会議は解散され、参加者各自は、覚悟を決めたように、あるいは憂慮するように、重々しい、考え込んだ辛気臭い表情で会議室を出ていった。
エルを始めとする重役たちは、まだ話があるということで、会議室に留まった。
――居残るエルを、呼応を求めてじっと見つめたが、目線は会わず、落胆してクロロは部屋より出、廊下を他の者たちとまじって歩き出した。
ハァ、というため息が彼の口から出た。
詰まる所、彼も憂慮に沈んでいるのであり、また遠くへと血なまぐさい営みのために旅しなければならないという予想が、彼の気持ちに黒雲を生じさせた。
大聖堂でエルの小姓として暮らしていても、基本的にひとりぼっちのクロロは、ただでさえ、大聖堂ですらあまりリラックス出来ないので、遠出などすれば、ストレスが倍増するに違いなく、そのことへの予覚が、彼の気落ちの源となっているのだった。
「――え?」
ふと、クロロはそばを歩く同輩――とはいえ完全に赤の他人なのだが――に声をかけられ、自分の悩みに取り組んでいた彼は、聞き返した。
「知ってるか? お前」
彼は男で、兵士のひとりのようで、どうも気安い性分のようだった。クロロの目に、彼は、階級は高くなさそうに見えた。
「知ってるって、何をですか?」
「周りの連中も、お前みたくブルーになっているが、噂があるんだよ」
「噂?」
「そうだ。今回の遠征は、いつものようにチャンチャンバラバラっていう感じでもなさそうだぜ」
「そうですかね。ぼくはもう、観念していますがね。どうせ今度の旅も、人を殺して殺されてっていう虚しいやり取りに終始するんです」
「お前、しけてんなぁ」、と兵士は呆れたように目を丸くする。「ニヒリストのくせして、何で騎士の小姓なんかやってるんだ?」
「理由なんて何でもいいんです。ぼくは、単純に、ぼくがずっと一緒にいたいっていう人が、たまたま騎士だから、小姓になっただけです」
「はぁ」、と兵士はあまり納得が行かない様子をする。「まぁいい、とにかく、今度の旅の行き先は、山奥らしいぜ」
「戦場が山奥ということですか?」
「さぁ、あくまで噂であって、詳しいことは分からないが、今までみたいに、どこかの城まで、どこかの町まで、っていう旅ではないんだと」
クロロは釈然とせず、小首を傾げ、曖昧に返事した。
「何とかっていう、山奥だけに住まう原住民を、制圧しに行くんだと。ちなみに噂の出どころは、おれの知り合いの助祭だ」
――暗澹としていたところに、飄々とした軽い調子で話しかけられ、そういう眉唾の噂話を持ち掛けられ、クロロの暗色に染まっていた心に、明るいがヘンテコな色が混ぜ合わされた。
この兵士の耳にしたという噂話の真否は、クロロにとっては、さほど知的好奇心をそそらなかったが、今までのように、会戦という形式で相手と熾烈に戦わなくてもいいかも知れないという可能性に、彼は、一抹の安堵を覚える気がした。
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