さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第29話

***

 

 

 

「ようこそ」

 

 そう、テーブルの向こうにある立派なソファに深く座る、豊かな顎髭に貫禄のある男は言った。シュトラウスという。

 

「あなた方のことはだいたい知っている。ギルドのベンヤミン(・・・・・)から聞かせてもらった。旅人で、諸国を巡っているのだな」

 

「えぇ、そうです。本日はよろしくお願いいたします」

 

 ――ベンヤミン。思うにギルドハウスで世話になったおやじのことだろう。

 

 ぼくとブルーノは、彼と対面している。ぼくらはあの麦畑に見えた邸宅の一軒にお邪魔し、その応接室で、仕事の委託の可否を巡って、今は面談中というわけだ。

 

 ひとつしか椅子がなく、ブルーノがそれに座り、ぼくは隣に突っ立っているだけだ。事前に、ブルーノから、よけいなことはしゃべらず、引っ込み思案な子供を演じて大人しく黙っていろと言われたので、そうしている。

 

 コンコン、という音がする。誰かが応接室の扉をノックしたようだ。

 

「旦那様、お茶をお持ち致しました」

 

「よろしい。入りなさい」

 

 大声でそう扉の方へ叫ぶシュトラウスさんは、威厳があり、いかにもお金持ちらしく、人の上に立つ者に相応しい自負があるようだった。

 

 扉が開き、トレーを持った女中が入室する。にこにこ笑顔で愛想と恰幅のいい女性だった。

 

「お飲みください」、と彼女はトレーよりマグカップを、それぞれの前に並べる。

 

「あぁ、すみません」、とブルーノ。

 

「はい、ぼくにも」

 

 そう言って、女中はぼくにマグカップをソーサーごと渡す。ぼくはまさかもらえるなどと思わなかったので、面食らってしまう。

 

「お飲みなさい」、とシュトラウスさん。「君もお客様だ。遠慮はしなくていい」

 

 ぼくは取りあえず、ソーサーを目の前のテーブルに下ろした。

 

「では、本題に入るが」

 

 シュトラウスさんが色を正すと、女中は真剣な雰囲気を察したように、「失礼します」と早急に退室した。

 

「正直なところを言わせて貰うなら、わたしとしては、正規の兵士を雇いたいのだ。護衛を頼むなら、やはり適任というのがあるものだ」

 

「お気持ちは分かります」

 

「ただ、兵士は軍に所属しているもので、基本的に個人という単位では動かない。要するに、軍務にしか従事しないのだな。村民の依頼を受けるには、ちょっと規模が大きすぎるというわけだ。そうなると、警護が出来るのはだいぶん限られてくる。まさかその辺の農民や職人に頼むわけにはいかないし、まして連日村をお留守にしなければならないわけで、困っていたのだが、いや、あなたのような人がいてくれて、ずいぶん心強いと思ったよ」

 

「要人警護の仕事は何度かこなしたことがあるので、ぜひ、任せていただきたく思います」

 

 そう、ブルーノは快気炎を吐く。

 

 しかし、はて、今までそんな仕事をしたことがあったろうか。ぼくは疑問に思い、記憶を辿る。色々と仕事をしたが、その中に、要人警護やそれに類するものはあったろうか。

 

 ……なかった。

 

 だが、ぼくは、はたと気付いた。

 

きっと、ブルーノは嘘をついているのだ。結局、ぼくらは武具屋を訪れ、そこで武器と防具を買ったけど、それは初めてのことだったし、今までやってきた仕事では、武器なんていらなかった。せいぜい護身用に短剣があれば事足りた。

 

 だが、ぼくと出会う前に、あるいはそういう危険な仕事をやったことがあるのかも知れない。それは聞いたことがないし、分からない。

 

 不確かな要素をはらんでいる仕事を、ぼくはやらないといけないらしい。一切の予測が出来ず、何となくかろうじて分かるのは、物騒だということだけ。物騒だから、武器と防具を調達したのだ。

 

 護衛するリーザという女性はまだどういう人か分からない。このお屋敷にいるのかも知れないし、出かけているのかも知れない。

 

 何が起きようと、ぼくはブルーノと一蓮托生の仲にある。

 

 おのれを信じ、また、ブルーノも信じて、やっていくしかないのだ。

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