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確かに、仕事を引退するということは、その仕事の責任の免除であり、自由への解放であるということに、誤りはなかったと言える。
退職したオットーは、その後、自分の時間を、ある仕事、ある組織、ある権力者に対して、労働などの形で献上する必要がなくなり、すべてみずからの裁量で使えるようになった。
とりあえず彼は荷造りした。それまでしたことがないほど長い期間を想定し、たくさんの荷物をまとめないといけなかった。何となれば、目的地が決まっておらず、旅程がはっきりしなかったためである。
流浪者の噂は、オットーは、よく耳にした。彼らは、独特の価値観を持つ、定住する土地も財産も持たない異端者であり、時には盗みを働く犯罪者と同一視されることがあり、卑賎として差別されている。
そういう者と一緒くたにされるのは、オットーは本意ではなかった。彼は延々旅をするために仕事をやめたのではなく、新しい居住地を探し求め、そこに移り住み、職探しをし、自主独立の道を開くつもりであった。
そういうわけで、旅の道具やら保存食やらを蓄えに町の商店を日がな一日巡っていると、彼はある者と道端で行き合わした。
褐色の長い髪を、後ろで括り、馬の尾のように垂らしている……リーザだった。
両者とも、相手の存在を認めて、久しぶりだったというのもあり、また、決して再会を喜び合う仲ではないというのもあり、それぞれ、一瞬迷いのために、たじろいだようだった。
雪の降る一日の、夕べだった。
オットーにとって、彼女と顔を合わせるのは、ほとんど、彼女の滅びたふるさとへと、情況の視察のために共に旅した時以来だった。
飛脚の用事で、リーザのもとへ届け物があれば、まだ顔を合わせる機会があっただろうが、彼女のふるさとが滅亡し、彼女の人間関係が無茶苦茶にされてしまった以上、彼女における文通などの外部とのコミュニケーションは、絶えてなかったと言っていいものだった。
「……!」
オットーは、リーゼを見つめて、言葉が淀みなく出てこないために、口をポカンと開けた状態で、何だか間抜けだった。
リーザの隣にいる、局外者のアリサは――思うに下校途中だろう――両者の様子を窺っているようだ。
「お久しぶりです」、とオットーがようやく口にする。「リーザさんですよね?」
「そういうあなたは、オットー?」
「えぇ。覚えていただいて光栄です」
――とは言うものの、オットーの表情にパッとした明るさはなく、また、リーザにおいても、再会の喜びで相好が崩れるというのではなく、どことなく、隠せない動揺がうっすらと現れているようだ。
この遭遇における、二人の噛み合いのはっきりとしない悪さは、過日では共に行動していた二人の道が、今後はすっかり違えてしまうということの暗示のようであった。
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