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お元気ですか、などとオットーは、リーザに対して、決して軽々に口に出来なかった。
リーザの境遇を知っていれば、かのじょとの間で、家族やふるさとの話題が御法度であることは、容易に分かるのだった。彼女はふるさとの地共々、両親を失っているのだ。
「こちらの生活には、馴染まれましたか」
そう訊くのが、彼にとってせいぜいだった。
「勿論」、とリーザ。「ホームステイも、学校も、まずまずといったところね」
「順調のようで何よりです」
「あなたはどうなの、オットー?」
「わたしは」
と、口にして、彼は言い淀む。村を出るというのは、吐き出しにくい事柄で、出来れば隠蔽しておきたかった。
「相変わらず、細々とした労働者の生活を送っています」
「でも、元気そうでよかったわ」
「えぇ。お互いに、ずっと健やかでいたいものです」
面識のないアリサが、どこかいぶかしがる目でジットリと見ているのもあり、オットーは居心地が悪かった。
「では」、と目を泳がせて、軽い別れの挨拶をボソッと告げると、彼は彼女らの脇をそそくさと通り過ぎようとした。
「また」、とオットーは、背後に、やや強い響きのするリーザの声を聞く。
彼は立ち止まらざるを得なかった。
「また、いっしょに旅が出来たらいいわね」
「旅? どちらへ」
「決まってるじゃない」
――沈黙が訪れる。
まさか、またゲールフェルト村へ行きたいなどと、リーザは望んでいるのだろうか、と、オットーは疑惑と共に沈黙の中、考えた。
彼女の真意をはっきり知ろうと思わなかったオットーは、「そうですね」、という気のない返事を返すと、止めた足取りを再度動かして、女学生たちより離れた。
もう家に帰ろうと思った。その日調達出来たらいいものの多くは、すでに調達出来、後は家で荷物にまとめるだけだった。馬も牛も荷車も所有しない彼は、どれだけ多くの準備がいるといっても、持っていけるものは、自身が装備できるものに限定されているのだった。
歩きながら、オットーは思った。
――リーザは、執着心がある。ふるさとの村と、家族への執着心だ。一度いっしょに村へと旅してみたが、はっきりとしたのは、村の壊滅と、執事の死、そして、村が従属する国の、村に対しての思惑ぐらいのものだった。
その旅を、オットーは飛脚として指示され、値打ちのある情報を得るために、敢行し、リーザは、彼女の個人的関心より、彼に随伴していったのだった。
まだ、彼女の悔やみは拭い去られてはいないのだろう。両親の行方と、村を廃村に変えた組織の詳細がきっと切に知りたいのだろう。
だが、リーザのまた旅がしたいという旨の発言の調子は、半ば本気のようで、半ば社交辞令的だった。
だが、仮にリーザがまた村へ行くとしても、最早オットーには、関係のないことだった。
オットーは最早、城下町の住民でもなければ、雇われた飛脚でもなく、また、他人の旅やいなくなったひとの捜索などに軽々しく同行するほどのお人好しでもないのだった。
実際は、彼の内心においては、リーザに強力したい思いが、山々だったのだけれど……
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