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グルンシュロスの城下町が、大国、バルビタールの介入があって、騎士たちによる、騎士たちを中心とした政治体制に、それまでの、町民の代表者たちで成る参事会による統治より変更して以後、城下町で営まれる事業は、ほとんど全て、大なり小なり、軍需産業と関連付けられることとなった。
政治の主眼は、よそへの侵略のみにあり、あらゆる産業は、多様性を失い、強い武器と、剛健なる肉体と、不撓不屈の精神を賛美し、娯楽は唾棄された。
城下町での従来の政治の主軸であった参事会は、騎士の傀儡に過ぎない城主の命令によって解散させられ、以後、許可なく参事会及びそれに類する集会の結成を、一切禁止された。
バルビタールより騎士と兵士が派遣されることで、最早身内を徴用される必要がなくなり、少ないリスクで仕事に打ち込めると踏んだ事業の経営者や商人は、予想を裏切られて落胆した。
グルンシュロスの城下町に起こった政治的変容は、元々有力だった参事会の成員には、ほとんど何の恩恵もなく、むしろ自治権を失効させられることで、その地位を落としたのだった。
彼らは大いに憤慨したが、政治に対して抗議活動が出来る雰囲気ではなく、仮に敢行したとすれば、あっという間に鎮圧され、主要メンバーが見せしめにペナルティーを科せられるなどし、悲劇に終わったことだろう。
だが、確かに、軍が幅を利かせるようになったとはいえ、町民が奴隷にされたということはなく、唯々諾々とお上に対して従順にしていれば、生活は安泰だった。
騎士たちによる息苦しい独裁政治に憤りを持つ者はいるにはいたが、彼ら以外の大勢は、騎士たちによる新しい支配形式を甘んじて受け入れたし、反抗することが愚かしいとさえ思われるほどだった。
何となれば、彼らは強大無比であり、彼らの力を笠に着れば、何の懸念もなくなるのである。長い物には巻かれろという古諺の通りである。
だが、そういう状況の中で、オットーは、表向きは、従順であるフリをしつつ、腹の中では、甚だ懐疑的であった。
以前は、自由の空気の中で、個人が、個人の夢や目標を持ち、それに向かって努力を積み重ね、成長したり、出世したりするということが出来た。勿論、挑戦は絶対に成功するとは限らないし、失敗することだって大いにあり得る。
だが、事業に制限が加わってからは、人々はあまねく、騎士たちの思惑の中でしか動くことが出来ず、オットーは、その感じが、ずっと不愉快だった。
元々が大人しく気の弱い性分だったが、オットーは、ひとが生来持っていていいと思われる自由という権利を奪うものを、公平さを尊ぶ価値観から、許すことが出来なかった。とはいえ、彼の性格上、はっきりしたアクションを起こすことなど、出来ようがなく、延々と劣情を内部でくすぶらせ続けるのが、精々だった。
城下町を支配するようになった怪しい勢力の不正を許すことが出来ないが、かといって、(失敗したが、実際に町の者が断行したように、)革命を目論んで反乱などを起こす勇気もなかったオットーは、結局、この町を去ることに決めたのだった。
彼の旅立ちの決意には、寂しさや不安が伴ったが、反面、どこかせいせいする思いが、あるのだった。
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