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一通目の手紙を届けた相手の男に、オットーは、自身が興味のあること、つまり、ベーラムや、その友人であるこの男が類別される人種について、詳しく聞きたいと思った。
オットーと彼らとは、肌の色や、使用する言語や、衣服の彩色・模様などの点で、明らかに違っていた。
オットーは異人の存在に関して、幼い頃から、何となく親などの口からあるいは噂として、あるいは伝説として、半信半疑に聞いていた。
「――どうしたのかね、君」
「あっ……」
オットーは男に呼び覚まされ、ハッと我に返る。自分の関心事で、夢うつつの状態だったのだ。
「具合でも悪いのか?」
「そういうわけではないです。ちょっとボーッとしてました」
「疲れているんじゃないか?」
男は、オットーをどこか病人でも見るように、哀れみを込めた目で見る。
「いえ、体調には特に問題はありません」
そう答え、オットーは手紙の束を返してもらい、肩掛けの革のバッグにしまう。
「では、お邪魔しました」、とオットーは一礼して言う。
「もう行くのか。しばらく留まってくれてもいいのだが」
「お言葉は嬉しいですが、まだ届け物が残っているので」
「そうか。遠路はるばるご苦労だった。ありがとう。貴君の一路平安を、お祈り申し上げる」
男は、厳粛に、仰々しい仕草で惜別の挨拶をする。
「ひとつ、お聞きしてもよろしいですか?」、とオットーは、その挨拶を最後まで見届けた上で、尋ねる
「構わないが」
「あなたは、ベーラム殿とは、どういったご関係でいらっしゃるのでしょうか」
「わたしと彼は、古い馴染みさ。さっき言った通り、友人なのだ」
「失礼であれば大変恐縮なのですが……どうして、わざわざこういう場所に、孤立する形でお暮しになるのですか?」
「ふむ」、と男は、顎を持って考え事するように、静かに目を伏せる。「その話をしようとすると、長くなる。いかんせん事情が込み入っていてな、端的に説明するとなると、ちょっとばかりホネなのだ」
「そうですか」
「言葉足らずではあるが、ある種の悲劇があったとだけ、言っておこう」
「悲劇……」
――別れはしんみりしたものだった。男の言った悲劇という言葉が、重たい感情を伴って、二人の間に共有されたためだ。
山荘を後にし、待っている馬のかたわらに来ると、馬は鼻をオットーの顔に近寄せ、においを嗅ぐ仕草を見せた。馬のしめった鼻先が、すぐそばまで来、その生ぬるい吐息がかかったが、オットーは物思いに沈み、中々乗馬しようとしなかった。
ある種の悲劇、というのは、一体何なのだろう……。
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