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その後、オットーは、『ある種の悲劇』への疑問、関心を抱えて、他の手紙の宛先を巡回した。
手紙は何通もあり、全てを一日中に網羅するというのは不可能で、オットーは間に野宿を挟んで、任務を遂行した。
宛先は全て山の深奥にある山荘で、やはり孤立していたが、必ずしも宛名の者が在中とは限らず、留守であるところに、オットーが手紙を置いて帰るだけで終わることもあった。
オットーの『悲劇』の真相への意識は、メッセンジャーの任務を続けていく内に、疲労と不安とちょっとしたホームシックが募ることで薄まり、彼は道草を食わず、淡々と宛先に手紙を配るようになった。
計、七日を費やして、オットーは革鞄の中身を空にした。
ほとんど軽装で旅立ち、荷物という荷物も、長旅を想定しておらずあまり携行していかなかった彼は、寝床や飲食物の点で不自由があったが、幸い、手紙の届け先に住まうベーラムの友人、知人たちの好意で、宿泊することを勧められたり、飲食物を振舞われたりし、結果として、順調に各所をまわることが出来たのだった。
グラルホールドに帰着したオットーを、ベーラムは笑顔で迎え、彼の無事を喜び、手紙の全部が届けられたことに、感謝の意を示し、慰労した。
「ご苦労だった」、とベーラム。「しばらく休むといい」
衣服が汚れ、くたびれた様子のオットーは、その言葉に甘え、旅することで溜まった疲れを癒すことに暫時集中しようと思った。
――グラルホールドにおいて、その位置においてもそうだし、また、この町の運営の意思決定機関としても、中央に存する古城は、ベーラムの居住地であり、従って、彼に依拠するオットーの居住地でもある。その規模は、決して大きくなく、屋根の赤い塔が一棟だけある城塞を城壁が囲っているという簡素な構造で、グルンシュロスにあった教会と同程度で、オットーの目には時折、城のくせに教会めいて見えることがあるのだった。
オットーは、とりあえず、風呂屋へと行き、汚れた体を清め、汚れた衣服を綺麗なものへと着替えた。
その後は気の済むまで城の個室のベッドで横になり、延々と寝息をかいた。疲労は段々と溶け去っていくようで、ホームシックはすっかり治癒された。(とはいえ、オットーにとってグラルホールドは、まだふるさとと言えるほど馴染みきれていないのだけど。)
翌日、彼は寝すぎたことで付いた寝癖を直さないまま、町をブラブラ歩き回った。
数日ぶりに帰ってくると、すでに何カ月か住んでいる町だが、グラルホールドの風景が、始めて訪れた時のように、新鮮に見えた。
町の周囲に重畳と連なる峰々は、どれも見上げるほど高いところにあり、頂上は、冠雪しているのだった。
どの山も標高がとても高く、冠雪部の雪は、森林限界線を越えた高さにある万年雪である。
町の出入口には、市門といった市門がなく、木の柵が境界線の役目を果たしており、番兵はいなかった。そもそも、訪問者が少なく、また限られているため、警戒に人手を割く必要性があまりないのだ。
町の、建物が並ぶ土地は、山間のため起伏が激しく、あらゆる屋根が階段のように段差を成しており、この土地に町を建設しようとした者はよほど苦労したに違いない。
風が吹くと、春なのに、まだしっかりとした冷たさを帯びていて、日光が帯びる温もりとは対照的だった。
まだ数カ月とはいえ、新顔としてすでに顔を覚えられているオットーは、数日間の旅の話を、外に出て最初に出くわした百姓の男に求められ、答えている内に、どんどんと他の人が関心を持って集まって来、彼のいるところは、ちょっとした催し物のように賑わった。
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