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わたしと兵団の仲間と力を合わせ、避難してきたフェノバールの人々を擁して、街を脱出した。
フェノバールは平野部の街だったので、敵の目を盗むことが出来ず、フリードリヒ王が囮になってくれたお陰で、敵影はずいぶん少なくなっていたものの、敵との遭遇と戦闘は避けられなかった。
わたしは腕の傷の痛みを我慢して剣を振るったが、健闘するには傷が深過ぎ、仲間の援護が欠かせなかった。幸い、散らばって残っている敵たちはさほど脅威ではなく、仲間との連携さえきちんと取れれば、順当に翻弄し、打ち倒すことが出来た。――結局、あの兵器だけが問題なのであって、行われる戦闘が、従来の騎士同士の近接戦闘だけであれば、フェノバールはこのように敗戦と潰滅の危機に瀕することはなかったであろう。
やがて、わたしたちは敵の追走を振り切り、『光』の攻撃の及ばない安全なところまで逃げてくることが出来たようだ。わたしたちは平野をずっと行き、敵がもう追ってこないと判断が出来ると、近くの木立に入り、ひとまず目立たないように物陰に潜んでいることにした。
だが、わたしもそうだったが、兵団の仲間も、馬車にギュウギュウ詰めになっている避難民も、浮かない顔をしていた。
「逃げるには逃げたが」、と番兵のフォンスが言う。「一体どこへ向かえばいいんだ?」
わたしと彼は、馬を下り、木立の陰より、敵がいた方に注意を向け、あるかも知れない来襲に備えた。
「王はフェノバールの存続を望んでおられました」、とわたし。「王子と王妃がおられます。おふたりがいらっしゃれば、再興はきっと出来るのだと思います」
「国破れて山河あり、か。何だ? 掘っ立て小屋でも建てて街を作れって言うのか」
「……。」
フォンスはそう自嘲的に言って笑ったが、わたしは返答に窮し、口を噤んだ。
腕の傷の具合がよくないようで、ずっとズキズキする。まともに処置せずにいるので、悪化している可能性がある。
――ミアの顔が、ずっと頭の隅より離れない。彼女がもしこの傷を目にしたら、顔をしかめて心配し、すぐに手当てをしてくれただろうか。ミアは一体どうなって……。
馬車の中が窮屈だと、町民が何人か馬車を下りてくる。
その中に、わたしの傷を見て驚くと同時に心配し、消毒する薬草などはあるかと尋ねる女性がおり、わたしがないと言うと、(そういう知識があるのか)探してくるといって森の中を調べはじめた。彼女に同調して何人かが同じように木立の草木を観察し始め、わたしは何だかバツが悪い気持ちになった。
わたしが、木の幹にもたれてぐったり座っていると、その内、あの女性が「はい」、と言って何かわたしに見せてきた。野草のようだったが、それを揉んで絞った汁を傷口に塗布するといいという。わたしは受け取って彼女の言う通りに薬草を揉んで、出てきた汁を指で矢の刺さった部分に塗ってみると、ひどく沁みたが、悪くはなさそうだった。
わたしは感謝し、彼女は満足そうににっこりとした。
焦っても、仕方がない。深手を負った体では、何もかも思い通りに出来ないだろう。
だが、わたしはミアのことが悩みの種だったし、まだフェノバールに残って戦っているだろうブレイズのことも、フリードリヒ王のことも、同じだった。更に言えば、その他の兵団の仲間たちと町民たちも、そうだったし、『光』が投入したあの兵器が、すでにどれくらいの損害をあの大都市に与えたのか、怖いもの見たさで、わたしは興味があるのだった。
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