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あの女性が見つけてくれた薬草の効能は、覿面というほどではないが、滲出し続ける血が止まり、状態の良否はわたしには判断が出来ないが、これ以上の悪化はなさそうだ。
彼女は――ミアとおおむね同年代のようだった――わたしの知人でも何でもなかった。ただ彼女はフェノバールで薬草園を営んでいたという事情があり、その上彼女に備わる、誰かの負傷を見ると俄然同情的かつ献身的になるという性質が助け、わたしは迅速に助けられたというわけだ。
他の人々が薬草の採取を手伝ってくれたが、フェノバールの人々は、兵士・騎士には無条件に敬意を持つようで、わたしもその例に漏れず、敬意を持たれたことで、そういう運びになったらしい。申し訳なさが勝って、わたしは面映ゆい気持ちになった。
そうまでして貰うと、大なり小なり気になってしまうのが人情である。
わたしは彼女の名を聞き、マルテだと知った。薄い灰色の瞳が特徴的で、髪は背中まで伸びて長く、焦げ茶色だった。小顔で、鼻はやや下を向き、口角が緩やかに上がり、彼女の表情を明るいものにしていた。衣服はありふれたチュニックで、背は高くも低くもなかった。
わたしたちは皆木立に潜伏しており、全体の指揮を執ると進み出たフォンスは、ひとり立ち尽くし、難しい顔で顎を持って考え事をしている。
他のひとたちが一旦、逃走時の緊張感を和らげて話し合っているので、わたしも、たまたまそばにいるマルテと話すことにした。わたしが樹幹にもたれて座っている一方で、彼女はわたしの正面にしゃがんでいるのだった。
彼女が薬草園で薬草や他の草花の栽培をしていることを聞き、わたしは小姓である自分の身空をかいつまんで話した。
自然と、わたしの口からミアの話題が出、彼女が心配なのだと漏らすと、マルテはミアを知っているといい、早い話、服屋の娘のミアと、彼女とは、互いに友人同士なのだった。
「あなたがフリッツ! ミアがよく話す方なのですね」
わたしは照れ笑いせざるを得なかった。
「ミアがぼくについて普段どういう話をしているか知りませんが、ぼくは大した人間じゃありませんよ」
「そんな」、とマルテは、卑下するようなわたしの物言いに呆れて返す。「ミアはフリッツさんのことを敬っていましたし、応援してもいたんですよ。色々と込み入った事情がおありだったようで……」
わたしは、自分のことはどうでもよかった。ミアのことが知りたくて矢も楯もたまらないといった具合だった。
「彼女がどうなったのか確かめたくてたまらないんです。ぼくは彼女と旅してきました。事情はそれぞれ異なれど、お互いに家族を失った者同士、思いやりを持ち合ってきました」
「ミアのことがお好きなんですね」
「――分かりません。ただ今は、彼女がいなくてぼくは不安です。彼女が無事でやっているのかどうか……」
「ミアは、わたしといっしょに逃げました」
「だけど、城には来ていなかったはず」
「えぇ、わたしも首を傾げました。ただ、彼女は荷物をまとめてから行くと言って、わたしといっしょには逃げませんでした」
「つまり、彼女は逃げ遅れたと?」
「わたしは、そうは思いません。ミアだってあの『砲声』を耳にして、緊急事態だと鋭敏に悟っていましたから……」
もし、ミアが、わたしが補修を頼んだブレイズの胴衣でも持っていこうとしたのなら、わたしは彼女を愚鈍だと思わざるを得ない。
肝心の本人がいない以上、真相は分からない。
だが、ミアの友人だというマルテがいて、ミアが逃げたという証言を彼女から得られたのは、ミアはここにいないけれど、決して無益ではないと確言できることだった。
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