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わたしたちが、一瞬の気の緩みも許されない戦を逃れてこられたことは幸いと言っていいと思う。だが、敵より逃げたことは、すなわち敗北を意味する。
わたしたちは
皆、浮かない顔をしているのは、きっと同じ問題を共有しているためだろう。王はフェノバールの存続をわたしたちに一任したが、甚だ荷が重かった。わたしたちは王子を擁してはいるが、まだ言葉もまともに解せぬ幼児であり、彼を王として新しいフェノバールを創建するとしても、知見を備えた後見人を立てる必要があるし、そもそも根本的に、わたしたちは目下根無し草も同然なのである。
マルテといっしょにしゅんと沈んでいると、フォンスが歩いて来、「おい、フリッツ」と呼んだ。
「今、騎兵のふたりを遣わしたんだが、とりあえず、フェノバールの概況を確かめようと思う」
「来た道を戻らせたということですか」
「いや、遠回りするように注意した。敵に道順が知れて、おれたちの足がつかないとは限らないからな」
「馬車を見てみましたが、ある程度物資はあるようです。飲食物、軽量の武具防具、衣服、各種衛生材料、等々……ここに留まっても、恐らく数日は過ごせるかと」
「だといいがな。これだけの大人数だ。あんまり楽観視すべきじゃない」
「ぼくらがきっちり管理しないといけませんね」
「そうだな」
――マルテが、話の途中にわたしのそばを離れ、しばらくして戻ってくると、すでにフォンスとの話を終えていたわたしに包帯を持ってきた。それで傷口を覆って保護するということらしく、わたしは腕を差し出し、彼女に巻いて貰った。
ひょっとすると――とわたしは包帯を巻かれながら、思うことがあった。――わたしたちはこうやって今木立の陰に隠れ、潜んでいるが、何十人と一所に集まっていると、目立つし、大なり小なり騒がしいに違いない。出来れば分散するのがいいのだろうが、安易には出来ないだろう。今統制の取れていないひとつの様々なプロフィールの人間で成り立つ集団が分かれたところで、事態は混乱するに決まっている。
「きつくないですか?」
「――? あっ……」
考え事に没頭している内に、包帯は巻かれ終わり、わたしの片腕は、いかにも怪我人という感じになった。
「ありがとう。助かります。ここまでして貰って、申し訳ないくらいです」
「いえ、わたしたち町民は、兵士さま・騎士さまの奮闘のお陰で平和に生きていられるんです。このくらいの奉仕は当然です」
「……。」
わたしは微笑んで返したが、苦々しい思いを噛み殺して沈黙せざるを得なかった。
わたしがもっと健闘していれば、あるいは状況はこうはならないか、よりマシだったかも知れない。たったひとりの奮起で戦争の情勢が変わることなどまずないが、マルテの今言った言葉は、わたしたちが負けてこうやって逃げてきた今、ずいぶん空々しく響くのだった。
戦場から遠く離れてようやく、悔しいという思いとうまくやれなかったという自責の念が湧いて来、じくじくとわたしの自尊心を傷付けるのだった。
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