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わたしたちはその後、木立の奥へと入り込んでいき、ある程度広さのある場所を探し出すと、キャンプ地と定めた。馬車を曳いての木々の間の探索は障害が伴い、まっすぐ進むのがほぼ不可能だった。時には大勢で馬車を持ち上げて木の根を越えさせるなどし、険難だった。
キャンプと言っても大したものではなく、幌馬車を除けば雨風を凌ぐものは予備の幌くらいしかなく、それぞれ小さいランプの灯火を中央に寄り合い、粗食で小腹を満たした。故郷を失ったわたしたちは、誰もが惨めさに打ち萎れているようだった。
夜番はわたしが勤め、木立の入り口でひとりじっとしていた。最初は立っていたがやがて疲れて座って木の幹にもたれかかり、そうすると、重い眠気が襲ってくるのだった。
みんなが寝静まる頃、わたしのもとにマルテがやって来、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
「無理しないでくださいね、フリッツ。どうしようもなく疲れたら、誰かに頼ってください」
彼女は腰を下ろしたわたしの隣で、しゃがみ込んだ。
「わざわざありがとう。マルテ」、とわたし。
「夜は長いですが、幸い、いい空気が流れています」
マルテがそう言ったタイミングで、そよ風が立ち、彼女の長いこげ茶の、今は夜闇に溶け込んでよく見えない髪の先端をなびかせた。
「えぇ」、とわたしはにこやかに返す。「この春の夜気に憩いながら、のんびりやらせてもらいます」
――マルテはしばらく黙然とわたしのそばにい続けたが、知らない内に、彼女は木立の奥へと戻り、またわたしも、どうしようもない睡魔に何度も短時間の気絶をさせられ、気絶を繰り返す内に、曙光が平原を黄金に染めた。
その輝きを背後に、ぼんやりとわたしの目は、遠くに群がる人だかりらしき影を認めた気がした。
目を凝らして見やってみると、わたしは胸が詰まりそうになった。
ミアと思しき女性が、その中に混じっていた。
最初は半信半疑だったが、近付いていく彼等の全容は段々と明確さを増し、ブレイズと共に、他の騎士、兵士、町民らと共に、ミアの姿がはっきりと見えた。
薄褐色のくせ毛の髪でも、着古したチュニックでも、背格好でもなく、その馴染みのある面差しと瞳の煌めきと陰翳で、わたしは彼女と認識した。
わたしは眠気が吹き飛び、座っていたところ、立ち上がり、平原へと駆けていった。
ブレイズは浮かない顔をして馬に乗っていたが、わたしを見ると、相好を崩し、やや慎ましく、手を振った。
馬に乗っておらず徒歩らしきミアは、わたしを認めると、ハッとして目を見張り、同じように駆け出して、やがてわたしたちは互いに抱擁し合い、その場に膝を突いた。
「ミア、ミアだよね」
「うん。わたしよ。フリッツ」
それは、再会を喜び、祝う抱擁だった。家族が長い空白を経て顔を合わせるように、わたしはミアと、実際顔を合わせていない期間は短いけど、無事だろうかと色々と気を揉んでいたので、この再会に感激し、また安堵した。
彼女にもしものことがあったら、わたしは、あまりのショックに立ち直れないほどの打撃を受けたに違いない。そういう不安を越えての再会の喜びはひとしおだった。
気が済んだらわたしたちは互いに離れ、対話に相応しい間をあけた。
「どうしてたのさ」、と言うわたしの口調は、どこか説教めいて、ピリついている。「心配したんだよ。ひょっとしたら戦災に遭って死んじゃったんじゃないかって思ったくらい」
「わたしも、『光』が来た時、すぐに逃げようって思って走ったんだけど、補修したブレイズさんの胴衣を置き忘れて……」
「取りに戻ったの?」
そう問い詰めると、ミアは心細そうに目を逸らして頷いた。
叱る筋合いなどわたしには毛ほどもなかったが、ミアは、わたしに気苦労を負わせたことに引け目を感じているようだ。
「あんまり言ってやるなよ、フリッツ」
と、他のひとたちといっしょに近付いててきたブレイズがわたしたちの会話に加わる。
「ミアはよかれと思っておれの胴衣を、危ない道を戻って取ってきてくれたんだ。確かに命知らずだが、その意気と、勇敢さは買ってやってくれ」
――ブレイズはずいぶん疲れているようで、やつれていた。無理もない。彼は死線を潜り抜けて、こうして生き延びてわたしたちと合流したのである。
わたしは、彼に頷いて返すと、とにかく無事でよかったとミアを言祝ぎ、ふたりで立ち上がり、幸運に恵まれて生きて戻ってきたみんなの先頭に立って、彼等を木立の奥へと案内することにしたのだった。
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