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騎士たちの話し合いの結果は、予想され得たものとそう隔たりはなかった。
わたしたちは、フェノバールと同盟関係にある領土へと赴くことにした。
ぐずぐずしているヒマなどなく、即出発の手筈を整えるよう、各騎士はそれぞれの小姓、従卒に命じ、わたしもまた、例外ではなかった。
「――フリッツ」
と、マルテが、馬の状態を整えているわたしに、どこか心配げに眉を下げて呼びかける。
「眠たくないのですか? 夜番の後、一睡もしていないのでは?」
「だいじょうぶですよ」
そう、わたしは返すが、あくびが止まずに繰り返された。実際、眠かった。
周りでは避難民の人数が数えられ、ひとりひとりの名前や素性などはひとまず措かれ、足弱とそうでないものの選別のために、構成が精査された。子供、婦人、老人は優先的に台数の限られた馬車に乗ることが出来たが、男たちは髪の毛が真っ白だったりしわくちゃだったりしない限り乗れず、歩きを強制された。
全員での移動はまず無理で、機動力のある騎兵だけで、馬車を護衛しつつ移動し、歩き以外の移動手段を持たない者(やっぱり男たちばかりだったが)は、しばらく木立に残留することとなった。勿論、彼等は見捨てられるわけではなく、数名の騎士・兵士が共に残るのだった。
ひとりの小姓が、地図を広げてじっくりと読み込み、現在地から行き先への道筋を考えていた。
わたしを心配してくれたマルテと、ミアは、呼集されてわたしのそばを離れ、馬車に乗り込んでいった。
ブレイズの馬は汗と脂でベトベトになっており、馬具が汚れていた。わたしはう馬体と馬具を拭いて清浄にし、彼に報告しに行った。
彼は以前そうしていたように、樹幹に背を持たせて、腕組みしてボーッと空を見ていた。
「何を考えてるの?」、とわたしは、近くに誰もいないことを確認してそう気安く尋ねる。
「たくさんあるさ。考えるべきことは」
「そうだね」
「馬の整備は終わったか?」
「うん」
「よし、すぐ行くぞ。お前も早く準備しろ」
そう言われ、わたしとブレイズはそれぞれ自分の馬のもとへと向かった。
避難民たちは、馬車に乗ってわたしたちと共に行く方と、木立に残る方とに分かれ、がっかりした様子で座ったり寝そべったりしている男たちは、いかにも惨めだった。
残る騎士・兵士の中には、避難してくる時いっしょだったフォンスがおり、わたしと彼は、握手を交わし、互いの平穏無事を祈った。
「目的地にちゃんと到着でき次第、なるたけすぐにとんぼ返りして迎えに来ますから」、とわたし。
「あぁ、頼むぜ、フリッツ。また絶望に打ちひしがれて我を忘れたりするなよな。常に前向きに考えて行動しろ」
「はい」
「かなりくたびれているだろうが、後少しの辛抱だと思う。がんばれ」
――外に馬を曳いていって跨ろうとしたが、うまく行かず、何度目かにようやく落ちそうになりながら乗ることが出来た。周りかわ危なっかしそうに見られ、わたしも、自分の調子が悪いことがよく分かった。
馬上では頭がクラクラし、安定するまでじっとしていたが、どうも難しいようで、ふわっと体が揺らいだかと思うと、そのまま落馬した。
見送りのためにいたフォンスが慌てて駆けよって来、結局わたしは、自分の馬は置いておき、ブレイズの馬に相乗りすることになった。
その後、まだ太陽の低い位置にある早朝に、わたしたちは同盟国へ向けて出発したのだと思うが、わたしは、自分がブレイズの腰に回した手を固定する他何もすることがないと知ると、あっという間に彼の背中で眠ってしまった。
何度か目覚めた記憶があるが、脳みそが覚醒していた時間は、ほんの刹那だった。
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