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フェノバールを離れ、わたしたちは近傍の平原をずっと進み、傾斜をのぼったりおりたり、川を渡ったりし、彼方にある山岳の方へと馬でひた走った。
わたしたちのいた木立にはまだフォンスさんを始めとして他の者たちが留まっていて、後に迎えに行かないといけないので、目印になるように、仲間の騎士は、小振りな木の枝を一定の距離ごとに落としていった。
果たしてわたしたちの荒んだ気持ちが人里に受け入れられることで落ち着くようになるのか、小さからぬ緊張感を伴ってわたしたちは進んでいたが、とうとう目的の町が迫ってきた。
日が傾きだした頃合で、暗くなる前に着けたのは幸いだった。
インベガ……丘の上の町と聞いていたが、丘というにはその頂上はやや高く、どちらかというと、むしろ山のようだった。
町は頂上にあり、頂上までの斜面の上り坂は急峻で、駆けあがる馬が苦しそうだった。斜面はずっと下草と木々に覆われていたが、途中から岩肌が露出し、そこからは舗装された道路が通っており、後は道なりに行くだけだった。こういう要害の地形を活かした町なので、外敵の侵攻に強く、フェノバール同様、長い歴史と伝統を持っており、人々を統べる王はひとつの家系からいつも選ばれるのだった。
町の方より、ひとを乗せた一匹の馬が駆け下りてくるのが見えたが、彼は先般ブレイズが先に遣わした騎士のようだった。
わたしたちと彼はひとまず止まり、互いに対面し合った。
「お待ちしておりました」、と騎士。
「あぁ」、とブルーノが返事する。「こちらも、馬を走らせながら、早く着かないかと気を揉んでいたのだ」
「そうでしたか。このたびはお疲れさまでした」
「その様子だと、インベガは我々の要請を聞きいれてくれたと思って大丈夫みたいだな」
「えぇ、インベガ王ギュンターは、皆さまを待っておいでです。王ギュンターにおいては、我々の王フリードリヒの不在をひどく悲しんでおられました」
「殿下が亡くなったなどとは申しておるまいな?」
「はい。行方不明とだけお伝えしたばかりです」
「我々は殿下のお姿を断腸の思いで見届けずにこうして逃げてきたのだ。きっと囮の役割を果たし終えた後、無事生き残って我々のようにお逃げになったと思いたいが……」
ブレイズの言葉の後、一同は悄然とその場に立ち尽くした。誰かが言及しなくとも、フェノバール王フリードリヒの辿った末路が明るいものだったとは、決して言えないだろう。
中央の城まで被害が及ぶという極めて劣勢の状況で、敵の注意を一手に集めて引き寄せ、確かに王は武勇に秀でていたが、戦争というのは、ひとりの力でどうにかなるものではない。戦闘員がおり、戦略があり、武器があり、また兵器があるのだ。それらの要素の綜合が優劣を決する。
――日が傾いている上、ここは高所だ。通る風が冷たく、わたしは思わず寒さに震えた。
ブレイズと騎士の対話は終わり、わたしたちは、騎士によって、インベガまで案内された。
上っていく斜面の先に、この山の頂上にあってよく目立つ城の塔が見えた。
わたしたちの逃避行は、この山の町でようやく、延々と望まれてきた終わりを迎えられるようだった。
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