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日が地平線へと沈もうとする頃になってようやく、王への謁見よりブレイズたちは帰還してきた。
篝火が焚かれ、宵闇にささやかに光明を広げていた。
わたしを始めとして、彼等を待ち焦がれていたみんなは、彼等の到着に際し、こぞって興味津々といった様子で報告を暗黙の内に要求しているようだった。
「ギュンター殿下に会って話をしてきた」、と彼は特に感情のこもっていない顔で口にした。「まず、おれたちの暮らしだが、当分安泰だ。城を間借りさせてくれることを殿下が許してくださった」
顔こそパッとしないが、第一の報告は、避難民の大半が哀願していたもので、もうどこかに移動する必要がなく、屋根と壁に守られて暮らせるようになるのだと知ると、声を上げて喜んだ。
「城へは今から案内する。だが、みんな分かっていると思うが、城での暮らしには勿論、期限がある。それまでに各自、自立のすべを模索してくれ。幼い子どもがいる者、怪我人、高齢者は取りあえず例外で、期限はない。城中での生活とはいえ、贅沢は出来ないから、節度はきちんと守ってくれよ」
ブレイズの誡言が続いたが――何人かの冷静沈着の士を除き――城で過ごせるとの報告に浮かれる人々は、ほとんど聞き流していた。
みんなが気付かない程度にさりげなく、ブレイズは小さくため息を吐き、「付いてきてくれ」、と言って踵を返した。
すでに馬をどこかに置いてきたブレイズとその同行者の騎士たちは、歩いてわたしたちを誘導し、馬車を曳く馬はひとの歩みに合わせてゆっくり大人しく歩くよう、馭者が制御した。
狭い町の通りを大勢で練り歩いていったが、日が暮れたせいか人影が疎らで、すれ違うひとはと言うと、夜警で出てきた城の兵士くらいのものだった。
「このインベガは平和な町に見えますが、実際はどうなんでしょう」
と、そばを歩くマルテが誰に対してでもなく尋ねてくる。ミアはよそにいるようで、そばにはいなかった。
「さぁ。ぼくにも判断が付きませんが、ブレイズが何か王から聞いているかも知れません」
「ブレイズさん……」
マルテは彼の名を小さく呟き、しばらく沈黙した。
わたしは、遠い篝火に照らされるばかりでぼんやりとしか見えないその時の彼女の顔に、何か注目すべき感情がさっと滲んであらわれた気がした。
ひょっとすると、マルテはブレイズのことが気になっているのかも知れない。
だが、さして関心がなかったわたしは、淡々と彼女との話を進行させた。
「この町がどうであれ、『光』の脅威は太陽が光を放射するように、世界にあまねく広がろうとする動きを見せていますから、片時も油断はできません」
「……そうですね」
彼女はどこか憂わしそうに俯いて返した。
「マルテ?」
「はい?」
そう呼ぶことでようやく彼女は我に返ったようにきょとんとした目付きで見返して来、わたしはいささか呆れてしまった。
わたしとマルテが何となく気まずい空気に包まれていると、ミアが後ろから早足で来てわたしたちと並び、彼女が参加することで、わたしとマルテの間にあったそれまでのぎこちない空気は消散し、三人で城までの短い道中、他愛のない話に花を咲かせたのだった。
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