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夜半の城中をどこかに向かって歩くマルテが、ふと立ち止まったのはある窓辺だった。
それは採光と展望のための小窓で、ただ壁をくりぬいただけのものだった。
彼女は小窓の縁に持っている燭台を奥と、両手を突き、爪先立ちで身をのりだすようにし、どうやら外の様子を窺っているようだ。
マルテはしばらくそのままでおり、わたしは彼女の動きを離れたところから注視していた。
やがて彼女は伸ばしている首を元に戻し、姿勢を正すと、ハァ、とはっきり聞こえるくらいのため息を吐いた。
今度マルテは、それまで向こうへと歩いていたのが、こちらへと戻ってき、わたしは肝を潰して大慌てで彼女に見つからないよう、駆け足で逃げ出した。
途中、さっき出くわした衛兵とすれ違い、駆けていくわたしを見て、よっぽど慌てているように見えたに違いない、彼は面白がって笑った。
急いで元いた大部屋に戻り、自分のベッドまで暗い中探し当て、横になった。
程なく扉の開閉音がし、見ていないが、マルテが帰ってきたのは明らかだった。
わたしもマルテも、トイレに用はなかった。
では彼女は、いったい何をしにこんな夜中、廊下に出ていったのだろう……?
ベッドの上で、途切れた眠りの続きは案外早々と訪れ、わたしが次目覚めた時、朝になっていた。
住処をおわれたわたしたちは、ギュンター王の計らいで、当面の仮寓としてインベガ城の一室を貸与されているわけだが、ブレイズの言った通り、期限があり、それまでに各自、おのれの身を立てるすべを模索しなければならない。
わたしを始めとした兵士、騎士は、インベガ兵団の指揮下に入って戦闘の訓練及び敵との実戦に従事すればいいものの、難しいのはその他の人々で、必ずしも彼らが元々やっていた仕事がインベガにもあるとは限らないのである。みずからの職歴に適合する仕事があればいいが、なければ一から始めないといけない。その不便と苦労は察するに余りある。
ブレイズ及び彼と同等の騎士たちは、インベガ兵団の上官たちと会合を持つために、円卓のある特別な部屋へと招かれた。フェノバールとインベガの間で、『光』について情報交換するためである。わたしたち小姓はと言うと、移動に酷使した馬たちのケアのため、とりあえず厩舎へと向かわなければいけなかった。殺されたり行方不明になったりしていなくなった小姓の分も、生き残った小姓がカバーしなければならず、中々面倒な仕事だった。
ブレイズと同等だが会合に参加しない騎士が数名おり、彼等は、わたしたちが木立に待たせてきた残存の人々を迎えに行くために朝早く出ていった。
『光』は、進歩を続けていることだろう。彼らが先へ進めば進むほど、わたしたちにとって危険は大きなものになっていく。
『光』との戦に敗北したが、完全に打ち負かされたわけではない、彼等に対抗して討滅するという使命を帯びたわたしたちは、今は出来ることを着々と重ねていくことで、明日の備えとしていかなければいけないのだった。
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