さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第320話

***

 

 

 

「マルテがどうしたって?」

 

 ミアが聞き返す。

 

 わたしは、昨夜のことについて彼女に尋ねてみようと思い、口にしたのだった。

 

「夜中にふと気配がして起きたんだ。そしたらマルテが、燭台を持って部屋を出ていくのが見えて、後を追ったんだけど」

 

「お手洗いにでも行ったんじゃないかしら? わたしは朝から晩までずっと寝てたけど」

 

「そういう雰囲気じゃなかったから気になったんだ。お手洗いかって思えば、ぼく、わざわざ付けたりなんかしないよ」

 

 結局、マルテはどこにも行かず、廊下の窓辺で外を眺めると、いささか気落ちして部屋へと帰ってきたのだと言うと、ミアも、わたしとだいたい同じで、腑に落ちない感じだった。フェノバールで知り合ってからも、特に不審に思わせるところはなかったようだ。

 

「気にはなったんだけど、ミア、彼女に直接聞くようなことはしないで欲しいんだ。昨夜のマルテは……寝ぼけた感じじゃなかった。きちんと覚めていて、何か目的があって、出歩いたんだって思うんだ」

 

 わたしがそう真剣に言うと、ミアも同調してくれたようで、だが、面持ちには陰があった。

 

「分かったわ、フリッツ。このことはナイショにしとく」

 

「恩に着るよ」

 

 会話を終え、わたしたちは別れた。わたしは街中に、ミアは城内に、それぞれ向かった。

 

 歩きながら、わたしは改めて、このインベガという街の模様をよくよく観察した。

 

 石造りの建物ばかりが軒を争っている。道路も石を敷いたものである。建物は高いものと低いものが雑然と入り乱れて並んでおり、ずっと続く道路を封鎖するようにたっていることがあるが、人がちゃんと通れるようにアーチのトンネルとなっており、道路をまたぐ建物は基本的に渡り廊下の機能を持っているようだ。

 

 まっすぐ行ったり、折れ曲がったりを繰り返し、わたしは、渡り廊下の建物いのぼる階段を見つけ、上ったら広場の向こうは開けており、城壁よりやや越えた高所の眺望が見えた。わたしたちの来た平野が大きなスケールで見下ろされ、しかし、細かいことはよく分からなかった。

 

 わたしは、手でひさしを設けて遠望し、木立の者が戻って合流することを予期した。

 

「いい眺めですね」、とふとわたしは、声をかけられた。

 

 振り返ると、マルテが立っているのだった。わたしは即座に、ゆうべを思い起こした。

 

「お散歩ですか? フリッツ」、と彼女が人懐っこい微笑をたたえて訊いてくる。

 

「えぇ、まぁ」と、わたしは何とはなしに決まりが悪くて目が逸れがちになり、歯切れの悪い返事をする。

 

「しかし、お時間は大丈夫ですか。お城で訓練されるのでしょう?」

 

「まだ休憩時間のはずです。それに、訓練といっても大したものではないので、あまり熱意を持って取り組もうと思えないんですよね」

 

「そうですか……」

 

「マルテは?」

 

「わたしは、新しいお仕事と住まいを決めてきたところです」

 

「もう決まったのですね」

 

「えぇ。たまたま運がよかっただけでしょう。薬草を取り扱うお店がいくつかあって、その内のひとつに、置いてもらいます。薬草の栽培と管理が主立った仕事です」

 

「マルテはきっと優秀なんでしょう。ミアと話しましたが、彼女はまだ仕事探しの途中みたいです」

 

「いいえ。わたしは優秀なんかじゃなく、本当に幸運が恵まれただけに過ぎません。ミアは優れた裁縫と仕立の技術を持ってます。ただ、まだ機縁が巡ってこないだけでしょう」

 

 わたしは、じっとマルテの顔を見つめていた。背中まである長い髪が風によくなびいて注意が行ったし、灰色の瞳が綺麗だった。この美貌と言える容貌と、ゆうべの不可解な動向が、マルテにミステリアスな雰囲気を与えていた。

 

 そしてわたしは、彼女の目元がうっすらと黒ずんでいることを認める気がした。きっとクマだろう。

 

「……?」

 

 わたしの視線に、マルテが首を傾げる。

 

 わたしは決まりの悪さに耐えられず、目を背け、そろそろ城に戻らないとと言って、挨拶の言葉もなく、その場を去ったのだった。

 

 

 

***

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