さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第324話

 

***

 

 

 作戦を組み立てるために、フェノバールを征服した『光』の動向を知る必要があることから、斥候が数人、上官の命を受け、当地へと赴いた。

 

 彼等はわたしたちが数日を費やした道程を、馬を飛ばすことで、たった一日半で往復して来、情報を持ち帰ってきた。

 

 当地の状況は報告によれば、こうである。

 

 フェノバールの街は戦後まださほど時間が経っておらず、荒廃するに任せている。倒壊した家、ひび割れた道路、焼けて倒れた木材の束……。戦禍の跡が生々しく残っている。

 

 問題は、住人である。脱出できずに残された人々は、もちろん、戦いに巻き込まれて命を失った者もいたが、生き残った者もいた。彼等はだが、元の生活に帰っている様子はなく、とにかくどこの家屋ももぬけの殻となっている。目にされるのは教団の者と思しき聖職者や騎士、兵士ばかりで、農作業や手仕事にいそしむ素朴な装いの民がいっこうに見当たらない。

 

 わたしはわたしが付き従うブレイズを通して当地の状況を聞き知ったが、姿の見えない人々に関しては、様々な憶測がささやかれたという。皆殺しにされたとか、城に閉じ込められて奴隷としてこき使われているとか、そういった、どちらかというと思い付くのがたやすい憶測である。

 

 わたしは、ミアのことから、監禁されて洗脳されているのかも知れないと想像したが、所詮他と変わらず憶測の域を出ないし、目下注意すべきは刃を交える敵であり、民ではないのだった。

 

 鹵獲対象となっている兵器は街の各所に散在しており、放置されているというよりは、むしろ敵の襲来への備えとして、配置されているという見方がされた。

 

 

 

 出征の前夜、わたしとブレイズは自分たちの部屋で、来たる作戦のために準備に余念がなかった。しっかり腰を据えて戦うのではなく、やることをやったらさっさと撤退するつもりなので、出来るだけ身軽なのがよかった。武具の代えは多くは持たず、糧食も同様だった。

 

「こういう戦いって、ぼく、やったことないから分かんないや」

 

 と、わたし。

 

「どんな戦いだって、そうさ」、とブレイズ。「やる前にやり方が分かることには、そう苦労はない。戦争は常に賭けの一面を持っている。出たとこ勝負だ。ただし、あらかじめ打つことの出来る手は全て打っておく。後は、人事を尽くして天命を待つってやつさ」

 

 わたしが革の鞄に色々と詰めている一方、ブレイズは武器の切れ味と、防具に脆弱なところがあるかないか、棒などで打って確かめていた。

 

 他にも騎士と小姓がいたが、彼等にはわたしたちの砕けた関係は知れていたし、更に言えば、他の騎士と小姓も、公の場での厳格な上下関係とマナーに反して、プライベートではカジュアルな口の利き方をしていることが多いのだった。

 

「厳しい作戦だと思う」、とブレイズ。「何せ、俺たちは敵地に突っ込んでいくんだからな」

 

「兵器さえ奪えば、もう逃げるだけだよね」

 

「そうだが、そう捗々しく行くとは思えない。集中攻撃をどれだけ凌げるかが作戦の鍵だな」

 

「こっそり忍び込んで秘密裡に出来ればいいのに」

 

「場所はあのフェノバールだ。おれたちがかつて住んでいて、よく知っていた街だ。城壁があって夜は閉じるし、門のところに番兵がいて必ず見張っている。うかつな真似はしにくい。それに、あれだけ大きくて重い兵器は、簡単に持ち上げられないだろう。何かにのせて運ぶしかない」

 

 新しい展望を開くため、わたしたちはまた、戦争に打って出る。やや遠方なので、近くに簡易の拠点を設け、そこより出撃する予定だ。うまく運ぶかどうかは分からない。ブレイズの言う通り、出来る限りの準備をして、後は精一杯励むだけだ。フェノバールとインベガの連合軍の足並みがどれだけ揃っているか、疑問だし、何よりわたしたちと『光』とでは、強力な兵器の有無によって歴とした戦力の開きがあるわけだが、決して悲観するべきではない。

 

 ブルーノと旅をしていた頃が懐かしい。時の流れは、彼を常世へと連れ去り、わたしは、貧乏だけどのんびりと過ごせた旅路より逸れて、苛烈なる命の奪い合いの中でもみくちゃにされるようになった。

 

 このわたしの道は、険しいが、どこかに続いていることは確かだ。その先を確かめるために、わたしは、歩み続けねばならない。

 

 

 

***

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