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しばらく、考えていた……
ひとの人生には、幸せがあれば、不幸せもある。どちらも等しく存在している。片方は人生を明るく照らす光であり、もう片方は、人生を黒く染める
もしも、どちらかひとつだけを選択することが出来るというなら、誰しもきっと、幸せを選択して、不幸せを否定し、拒絶するに違いない。
だが、もう一度言うが、幸せも、不幸せも、どちらも等しく存在しており、片方だけでは成立しない。
自分という概念が、相手という概念との相互補完的関係において存立し得るのと同じメカニズムで、幸せも不幸せも存在している。
確かに、誰だって、幸せが好きで、不幸せが嫌いだろう。だからといって、幸せだけを肯定し、不幸せを否定するような真似は、果たしてしていいものだろうか?
幸せは甘く、不幸せは苦い。だが、不幸せを否定し、閉め出してしまっては、幸せは孤立する。
そして孤立した幸せでは、人生は完成しないのだ。
ぼくの人生は、母の死という不幸の上にある。
「何、考えてるの?」
その言葉で、ぼくはようやく、はたと我に返った。
「ねぇ、わたし退屈なの。陰気臭く黙って俯いてないで、何か話してちょうだい」
「リーザ嬢……」
「あぁ、もしもし」
外から声がした。ブルーノが幌の中を覗き込んでいるのだった。
「トイレとかはよろしいですか。この近くに村があるようなので、もしご希望があれば寄りますけど」
「わたしは結構よ。なるべく先を急ぎたい」
「ぼくも。だいじょうぶ」
「諒解」
ブルーノは正面に向き直り、隣のコンラートと話し出した。そしてその話は、ぼくとリーザ嬢も耳を傾けるに値するもののようだった。
「コンラートさん」
「はい」
ブルーノは馭者に地図が見えるように広げる。
「ぼくらは今、私道にいる」
「そのようですね」
「グルンシュロス城へは、まだ数日を費やします」
「長い道のりですな」
「補給のために、何度か人里へ立ち寄らないといけません。無補給でこの旅路を制覇するのは到底無理です。が、この話の本筋は、人里じゃない。道なんです」
「道?」
「えぇ、ぼくらが今いる私道は整備状態も悪いし、管理がマメじゃないので、様々な不安要素があります。山賊や、猛獣が潜んでいるかも知れない」
コンラートさんは何も言わなかったが、憂慮する気配はうっすらとした。
「だから」、とブルーノは続ける。「街道に合流するんです。街道は都市が管理しているので、私道にあるような危険性がないか、または少ない。通行者も比較的多い」
「成るほど」
「ただ、通行税がかかるので、その点は気を付けないといけませんがね」
「金銭のことはご心配にならないでください。旦那様には後でわたくしが説明しますので」
「ありがとうございます」
ブルーノは地図を丸めた。
ぼくもリーザ嬢も口を挟まなかったが、内容はしっかりと聞いていた。
馬車は今剣呑な道を進んでいるが、これからお金がかかるが、安全な道へ移るということだ。
ぼくとリーザ嬢は顔を合わせた。そして、リラックスしたのだろう。何となく、お互いに微笑み合った。