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爽やかに晴れた青空を、雲がのんびり流れていた。急がないこと、流れに身を任せること……雲は穏健さの象徴のようだった。
農地と思われる場所で、エルたち『光』
の方面隊一行は、調査のために留まっていた。ひとの活動の形跡や、生育されている植生などを確認し、未知の人々の営為への理解の糸口とするのだった。
――にわかに、緊張が走った。
ドサリと重たいものが落ちた音がし、近くの騎士が振り向くと、彼は仲間の騎士のひとりが倒れている姿を見てびっくりした。
チッ、とエルが苦々しく舌打ちする。
他の仲間たちも同様で、突然の出来事に肝を潰し、警戒心を急激に高め、それぞれ腰の剣の柄に手をかけ、臨戦態勢で周囲に細心の注意を払った。
倒れた騎士は、頭より血を流していた。そばに、投げてぶつけられたらしい石ころが転がっていた。
その騎士をはじめとして、一行の誰もが兜を被っておらず、軽装だった。山奥の開拓に際し、重装は不要だという見通しで彼等は来たのだった。
「誰だ!」、とエルが叫ぶ。
近くの樹上にいた鳥の群れが、彼の声に驚いたのか、一斉に飛び立ち、その羽音が彼等のいる空間に響いた。
誰かが、この農地の周縁におり、エルたちを凝視し、様子を窺っているようだ。その誰かは、エルたちに対して友好的ではなく、石を投げつけてくるほどはっきりした害意を持っており、そしてきっとその誰かは山の民であり、山を冒す侵入者に攻撃をしかけてきたのだろうと、一行は推理した。
つぶてがまたひとつ、ヒュッと飛んでいき、それはエルを目指していたが、彼は機敏に反応して素手でキャッチすると、目を凝らして藪の向こうの人影を見定め、その方へと鋭く投げ返した。
すると、やや離れたところで重たいものが落ちる音がし、またひとが倒れでもしたようだった。
以後、辺りにみなぎっていた緊迫感は忽然と和らいで消え、エルたちはひとまず胸を撫で下ろした。誰も何も口にしようとしなかったが、深い呼吸の音で、とりあえずだいじょうぶであることが示唆された。
――クロロは、騎士が倒れたことにいち早く気付き、すぐに慄然と身構え、ビクビクと体をこわばらせて立ちすくんでいた。
「敵ですか」、とひとりの騎士が誰にでもなく、問いかける。
「石をぶつけてくるというのは、そういうことだ」
そう答えてエルは、倒れた騎士のそばに行き、しゃがみ、うっすらと血痕の付いたつぶてを拾い上げてしげしげと見る。
「う……うぅん……」
騎士が低くうめき声を上げる。
「おい、誰かコイツの傷の手当てをしてやれ」
エルの命令で、衛生材料を所持している何人かの従卒が――騎士に従属する者を含め――諒解し、消毒、傷口の保護の準備を整える。
エルは血のりの付いた石ころをギュッと握り込むと、立ち上がり、藪の方へと歩いて近付いていく。
彼が投げられた石を投げ返して命中させた誰かが倒れている、その場所に。
雲はまだ、穏やかに空を流れている。
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