さまよえるフリッツ【完結】   作:Yuki_Mar12

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第332話

***

 

 

 

 爽やかに晴れた青空を、雲がのんびり流れていた。急がないこと、流れに身を任せること……雲は穏健さの象徴のようだった。

 

 農地と思われる場所で、エルたち『光』

の方面隊一行は、調査のために留まっていた。ひとの活動の形跡や、生育されている植生などを確認し、未知の人々の営為への理解の糸口とするのだった。

 

 ――にわかに、緊張が走った。

 

 ドサリと重たいものが落ちた音がし、近くの騎士が振り向くと、彼は仲間の騎士のひとりが倒れている姿を見てびっくりした。

 

 チッ、とエルが苦々しく舌打ちする。

 

 他の仲間たちも同様で、突然の出来事に肝を潰し、警戒心を急激に高め、それぞれ腰の剣の柄に手をかけ、臨戦態勢で周囲に細心の注意を払った。

 

 倒れた騎士は、頭より血を流していた。そばに、投げてぶつけられたらしい石ころが転がっていた。

 

 その騎士をはじめとして、一行の誰もが兜を被っておらず、軽装だった。山奥の開拓に際し、重装は不要だという見通しで彼等は来たのだった。

 

「誰だ!」、とエルが叫ぶ。

 

 近くの樹上にいた鳥の群れが、彼の声に驚いたのか、一斉に飛び立ち、その羽音が彼等のいる空間に響いた。

 

 誰かが、この農地の周縁におり、エルたちを凝視し、様子を窺っているようだ。その誰かは、エルたちに対して友好的ではなく、石を投げつけてくるほどはっきりした害意を持っており、そしてきっとその誰かは山の民であり、山を冒す侵入者に攻撃をしかけてきたのだろうと、一行は推理した。

 

 つぶてがまたひとつ、ヒュッと飛んでいき、それはエルを目指していたが、彼は機敏に反応して素手でキャッチすると、目を凝らして藪の向こうの人影を見定め、その方へと鋭く投げ返した。

 

 すると、やや離れたところで重たいものが落ちる音がし、またひとが倒れでもしたようだった。

 

 以後、辺りにみなぎっていた緊迫感は忽然と和らいで消え、エルたちはひとまず胸を撫で下ろした。誰も何も口にしようとしなかったが、深い呼吸の音で、とりあえずだいじょうぶであることが示唆された。

 

 ――クロロは、騎士が倒れたことにいち早く気付き、すぐに慄然と身構え、ビクビクと体をこわばらせて立ちすくんでいた。

 

「敵ですか」、とひとりの騎士が誰にでもなく、問いかける。

 

「石をぶつけてくるというのは、そういうことだ」

 

 そう答えてエルは、倒れた騎士のそばに行き、しゃがみ、うっすらと血痕の付いたつぶてを拾い上げてしげしげと見る。

 

「う……うぅん……」

 

 騎士が低くうめき声を上げる。

 

「おい、誰かコイツの傷の手当てをしてやれ」

 

 エルの命令で、衛生材料を所持している何人かの従卒が――騎士に従属する者を含め――諒解し、消毒、傷口の保護の準備を整える。

 

 エルは血のりの付いた石ころをギュッと握り込むと、立ち上がり、藪の方へと歩いて近付いていく。

 

 彼が投げられた石を投げ返して命中させた誰かが倒れている、その場所に。

 

 雲はまだ、穏やかに空を流れている。

 

 

 

***

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