***
毒矢を受けて意識の薄らいでいくエルは、体の調子の急変に気が動転し、周りのことに注意を払うことが出来なかった。
呼吸が苦しく、目まいで頭がボーッとし、視界がぼんやりと滲んだ上、赤っぽく見えるようになり、エルにおいては、ここで死ぬことになるかも知れないという予想が立った。
死んでこの世を去ることや、導師とクロロに先立っていくことなど、憂わしいことはいくつかあったが、毒によって苦しんでいる今、解放を望む気持ちが大きかった。
彼の意志がどれほどの強さであれ、放たれた矢の毒性をしのぐほどのものではなく、エルはしばらく苦悶の表情で肩を握ってしゃがんだ姿勢を維持していたが、やがて、仲間たちが無情に彼を見捨てて去り、山の部族たちがとどめの一撃でも食らわせようかと思案している内、パタリとその場にうつ伏せに倒れた。
……。
長の命令で、部族の内、ひとりの男が、腰ひもにさげている石を打ち欠いて製作した刃物を手に、騎士のそばまで歩み寄っていった。
彼はしゃがみこんで地に両手を突き、這うような恰好でエルの口元に耳を寄せ、呼吸の有無を確認すると、長の方へ振り返り、指示を請うような目を向けた。
腕組みしている長は、頷きもかぶりをふりもせず、みずから横たわる体へと近寄って、首に指を添えて、脈でも測るようだった。
風前の灯である弱り切ったエルの命は、今すぐに吹き消されるべきか、自然と消え入るのに任せられるか、彼等の判定に委ねられたのだった。
長の指に伝わるエルの拍動は、かなり弱弱しく、はっきり確かめようと指圧を強くすれば、その強さで止まってしまいそうなくらいだった。
長が謎の言語で何かを呟くと、男は納得したように頷き、出した刃物をしまって、長と共に立ち上がり、部族たち共々、広場を去っていった。
おっつけ鳥獣が関心を持って死体に寄って来、食い荒らしていくだろう、残った肉は腐って土壌の栄養となり、農地の作物の肥料となるだろう……彼等はそう囁き合ってでもいるようだった。
鳥獣はだが、すぐにはやって来ず、また、エルの命の火は、まだ完全には消えていないのだった。もちろん、彼の生命の猶予は、このままでは、残りわずかであることは、まず間違いないのだが。
静けさが覆う開墾された山の深奥の農地。
倒れたエルの周りを、その体の上を、その体中を、あるいは虫が列を成して這い回り、あるいは時折小鳥がやってきて背中にとまり、何かがおかしいとでもいうように首を傾げると、飛び去っていった。
その内、ひとがひとりやってきて、エルのそばにかがみ、彼の肩を掴み、ユサユサと揺さぶった。
「ねぇ、エル。起きてよ、エル。ねぇってば!」
――クロロだった。
彼は近くの藪の中にじっと潜み、敵たちが完全に去るのを待ち、更に戻ってこないかオドオドして、救いに向かうべきか否かさんざん逡巡した後、ようやく戻ってきたのだった。
***