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どれだけ相手がやさしそうに見えたとしても、実際やさしいとは限らない。外見にひとの真相の全てが現れているとは限らないものである。
クロロは山の部族たちに対して、穏和さを思わせる特徴が認められる気がした。原生の自然環境の中で暮らす人々の穏和さであり、それは、素朴な信仰と崇拝にのみ生きることによって純化された精神の成せるものなのだった。
だが、彼が――否、『光』の方面隊がこの山地へとやってきてやろうとしたことを顧みると、『光』の一味であるクロロが部族たちにやさしさや穏和さといった温情を求めるのは、愚にも付かないことであるのは明らかだった。
何となれば、『光』は何の通達もなしに山地を訪れ、侵略と支配のために踏み入り、あまつさえ、部族たちに土着の信仰を放棄して転向することと、土地全体を含めた支配権を『光』に謙譲することを要求したのである。
ひとの厚かましさに対する報いなど、ロクなものではない。クロロはそういう自覚を持つと、反省と失望とで暗澹としてくるようだった。
どういった処遇を下されるのか、決定するのは自分たちではないという諦念に、しゅんとしていたクロロは、ふと、ひとの気配を感じ、顔を上げた。
座っているクロロの前に、部族の男がひとり、しゃがみ、彼と目を合わせている。
男はクロロの縛られた腕を掴むと、軽く引き、クロロは、立つように促されているように感じ、立ち上がった。
男は、クロロの腕を後ろ手で持って移動し、どうやら洞穴の外側へと行くようだった。
横たわるエルを不安と共に首だけ振り向いて見ながら、クロロは連れられていった。
そうして、引き合わされた相手がいたのだが、それは、あのいてもいなくてもあまり変わらないように見える、見張りの男だった。髪が短く、背は成人男性の平均より低い。原住民らしく靴など何も履いておらず、元々日焼けしている黒い皮膚が、土汚れにまみれて真っ黒である。
洞穴の出入口で、クロロと見張りの男はふたりきりにして残され、クロロは、男にじっと見つめられ、決まりが悪い思いになった。
「――おまえ」
「――えっ?」
クロロはハッとし、耳を疑った。どうせ口が利けないと思った相手の口から、言葉が発せられたように聞こえた。
「おまえ、わるくない」
男が指さして言う。
やはり、見張りの男は、言葉を発し、彼は、話せるようだった――長と比べてずいぶんなまりがひどく、語彙もさほど豊富ではないようだが。
「ぼく、ですか?」、とクロロがきょとんとして返す――わるくないとは、どういうことだろう、と不可解に思って。
「ほかのやつは、わるい。おれたちのやまをけがし、おれたちをころそうとした」
「あっ……」
クロロは、何となく合点が行く。
つまり、こういうことだろう、と彼は憶測する。
――見張りの男の印象に過ぎないが、彼はきっと、あの時の内の広場でエルたちと対峙した部族たちか、あるいは樹上に潜んでいた部族たちに混じって、エルたちをじっと見ていた。そして彼は、おおむね『光』の方面隊に対して害意を認め、敵対意識を植え付けられた。だが、クロロだけは、なぜか例外で、男はクロロだけは、厚情を持って取り扱いたい思いに駆られ、こうして呼び出したのだ。
見張りの男はグイとクロロの腕を強く引っ張り、クロロは突然引っ張られて前のめりに姿勢を崩し、転倒してしまった。
笑い声が聞こえたが、悪意のある笑いではなく、純粋に面白いから笑っているという感じの笑いだった。
クロロは痛かったが、嫌な気持ちにはならず、何となく、雰囲気が和気藹々としているようで、微かに快いのだった。
洞穴の中のエルが気がかりだったが、僥倖があって、クロロは、山の部族たちの中に、懇意に意思疎通出来そうに思える相手を見つけた気がした。
それは、一縷の望みを得る糸口になりそうだという明るい展望を、クロロにもたらしたのだった。
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