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山に定住し、山外にはいっさい関わり合いを持たないという生活を営む部族たちが、局限的に使われる土着の言語以外を話すというのは、ふつう想定され得ることではなかった。
なまりがひどく、語彙の選択肢の範囲が狭くて、更に、会話に差し支えないレベルで運用出来る者はごくわずかな人数に限られてるという問題があるにはあるが、部族たちが、異人の言語の知識を持っていることには、何か意味があると見てよかった。
クロロは、洞穴の出入口の見張りの男と言葉を交わした。
転倒したクロロは、腕を縛られていたことでうまく受け身が取れず、デコボコの地面にあちこち打ち付けて浅い外傷をたくさん負ったが、特に問題はなかった。
男はクロロを介助して隣に座らせた。
ふたりの間でなされた会話は、彼等の人柄の合い口がよかったこともあり、打ち解けたものであったが、情報の伝達という点においては、男のボキャブラリの制限があることによって、満足の行くものとはならなかった。
だが、それでも、ぐったりと横たわるエルといっしょになって、囚われの身として部族たちの裁きを待ち受け続けるよりかは、よっぽどマシだった――クロロの拘束具は、打ち解けた会話を経ても解かれることはなかったが。
クロロは、仮に相手にうまく伝わらないとしても、これだけは言っておきたい事柄があった。
それは、エルを助けて欲しいということだった。
応急処置を施したとはいえ、依然として毒矢の毒に苦しむエルに適切な解毒剤を与え、その苦しみを緩和し、傷が治癒するようにして欲しいということだった。
その思いは、男に伝わったようで、だが、彼は、どこか悲しそうにかぶりを振った。
彼曰く、エルは、クロロと違い、警戒すべき攻撃性と恐るべき害意を持っており、安易に救うのは、部族たちの観点からすれば、適切ではないみたいだった。
クロロは、一縷の希望を掴み取る思いで旧友のことを告げたが、結果はそういうことになった。
打ち解けていたはずの会話は一気に雰囲気が落ち込み、クロロも男も、しゅんと俯いて口を噤んでしまった。
浅い傷が、ヒリヒリと痛んだ。
「でも――」、と男がふと口にする。
クロロはハッとする。
「でも、おまえが
そこまで言って、男はおもむろに立ち上がり、洞穴へと入っていくと、しばらくして出て来、またクロロの隣に座り、あるものを見せた。
手のひらに、土汚れにまみれてくねくねとした、ある植物の根らしきものがのっている。
「このくすりをやる。なかまたちには、ひみつだが」
クロロは根を見つめ、それでエルが救えるのだと想像すると、自然と腕が伸びた。
彼が縛られたままの腕を伸ばすと、男は手のひらを引っ込め、クロロが悲しそうに彼を見つめると、男も、どこか悲しそうだったが、睨んで返すのだった。
――解毒剤となる薬を巡って、彼等の手が交わるのか、交わらないのか、行く末を予見するのが難しいほど、彼等の雰囲気は、和なのか険なのか、曖昧模糊としているのだった。
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